第9話 魔物狩り



「あ、アチューラ…… 」


「アチューラの姐御、ご苦労さまです! 」


 威勢良く挨拶するちびデブの男。

 私の腕を掴んで離しはしませんでした。


「こいつがですね、 森に行きたいって言うもんですからね、 心やさしい兄貴が連れてってやろうかと…… 」


「本当かい? 」


 聞かれた私はブンブンと顔を横に振ります。


「お前ら、全く進歩がないな、いっぺん死んでやり直してみるかい? あ? 半殺しなら2回でもいいか? ん? コラ、 」


「かかか、勘弁して下さいよ〜 」


 ズリズリと後退る3人組。

 さっさと私の腕を離して逃げ出してしまいました。


「なあ、あんた 」


 腰を屈めて私の前に立つ、アチューラと呼ばれた女性。


「迷い込んじまったのかも知れないけどさ、ここいら辺は、ああいった輩がウヨウヨしてんだ、次からは、気をつけたほうがいいよ…… 」


「メレメ、どうかしたのか? 」


 そこへギルドからカウスが戻って来ます。


「ん、 あんた冒険者かい? 」


「はい…… 」


「この人は? 」


「変な男が絡んで来たのを追っ払ってくれたの、 ありがとうございました 」


 私は頭を下げて礼を言いました。

 手にしていた杖を見て、アチューラは私が魔道士だと理解したよう。

 

「いいかい、あんた、 魔道士の女の子なんて、ご馳走が皿に乗って歩いてるようなもんさ、目ぇ離したら次は無いと思いな! 」


「ああ、 はい、 分かりました! 」


「おお、 わ、分りゃいいんだよ…… 」


 アチューラも拍子抜けするほどカウスは元気良く返事をしました。


「あんた、魔道士だからとは云わないが、アタイら女だけの同盟(クラン)もやってんだ、 気が向いたら覗きに来るといいよ、 いつでも大歓迎だからさ 」


 彼女は自分の名前を出せば場所もすぐ分かるし、危ないときは助けにもなると言い残して去って行きました。なんか格好いい。

 カウスには3人組の男に絡まれたと説明します。

 アチューラが、助けてくれたとも。


「本当は一人で解決するつもりだった? 」


「ん? ま、まあ、そうだけど…… 」


 カウスには私の魔法を一度だけ見せた事があります。

 水の塊で頭を包んだら、人は簡単に殺れると説明したら、殺すまでしたら駄目だと説教されてしまいました。

 死ぬ直前に解除すると約束したけど、それも相手次第。

 残念ながら、人間にはクズがいますから。

 殺るときは、躊躇なく殺ります。

 私が魔女だからとは言わないが、私は弱いから私を殺しに来た者に情をかけるつもりはないですね。

 心配してるようで、心配してないカウスは、本当は1番悪い人なのかもしれないです。

 

 カウスがギルドに行って見てきた情報を歩きながら話して聞かせてくれた。

 階級ごとに森に入れる深さが決められているそう。

 私は初級、カウスは下級、この場合、徒党(パーティ)を、組んでいるので、下級のエリアまで入れることになります。

 下級が入れるのは夕方までに戻って来られる距離まで。朝から森に入って昼には折り返す事がおおよその目安になるとか。

 森の中で野営しても良いのは、中級以上。

 野営となると、夜通し交代で警戒にあたらないといけなくなる。大人数で行く事が前提となります。

 となると、階級を上げることが当座の目標でしょうか。


「あと、困ったことに、倒した魔物は全て持ち帰る決まりなんだってさ 」


「全て? 」


「そう全て。 死骸は残すと魔物の餌になるから、土に埋めるのも駄目なんだって…… 」


 もし、大物を倒してしまったりしたら、どうするのでしょう。そのことを聞いたら、数を上げる徒党は予め運び屋や解体屋を連れて森に入るそうです。

 倒した後に呼びに行ってもいいが、他の冒険者に横取りされる事も少なくないらしい。

 と、運び屋は言っていたそうで。

 ロバにミニサイズの馬車を曳かせるのを見かけたが、きっとあれが運び屋に違いない。

 重い魔物の死骸を運ぶなんて思いもよらなかったです。魔法でなんとかならないだろうか。

 だから大人数で行くのが前提なのかと納得しました。

 さて、2人で森に入る私達はどうしたらいいでしょう。

 話しながら街を出て草原を突っ切り、既に森まで来てしまった。

 "ウサギやネズミとか小型のものを狙えたらいいかな" そんな、行き当たりばったりな事しか考えが及ばない。

 まずは私達だけで狩れるか、狩れないか、そこからはじめなければ。

 2人の連携なんか、したことすらないのだから。

 私は〈魔眼〉の鑑定で魔物を探しました。

 かなりの数の冒険者が入っているからか、すぐには見つけられなかったです。

 が少し進むと、藪の中や、伸びた下草に隠れて "ホーンラビット" と言う魔物が潜んでいるのが分かる。


「ホーンラビットならいるけど、売れるのは肉? それとも毛皮? 」


 それによって使う魔法が変わってきます。

 

「毛皮だよ、白いやつだよね?」


 色までは分からないから。

 〈魔眼〉の〈遠視〉と〈透視〉を使うもかなり近づかないと判別つかない。

 "アイスニードル" と心の中で念じた。

 鉛筆程度の氷の針が空中に現れて獲物の首へ突き刺さる。

 指を下に向けて軽く振ると発動する。

 別にトリガージェスチャーは必要ないが、複雑な魔法の発動にはやったほうが安定する。

 音もたてずに絶命しました。

 回収に向かうと、脳天を何か細い物で串刺しにされた跡のある白い角付のウサギが見つかりました。


「へぇ、便利なんだね、魔法って…… 」


 カウスは感心したように言う。

 これで上出来だそう。

 これなら何匹か狩っても持ち帰れますね。

 縄張りがあるのか、離れた場所に隠れているホーンラビットを同じように倒しました。

 お昼近くになって5匹のホーンラビットを仕留めていました。

 "ガーン、ゴーン" とお昼の鐘が遠くに聞こえます。


「今日は、これで引き揚げようか? 」


「そうね…… 」


 初日だし、こんなものかと、私も諦めて戻ることにした。少し狩り足りない気持ちはしていましたが、持ち帰れなければ諦めるしかないです。

 明日は運び屋さんを頼むといいと思う。

 今日は避けたが、フォレストウルフが離れた所にいるのを、見つけていたから。

 もっと奥にはクローベアーもいましたし。

 思ったより、この森は魔物が豊富にいるようです。

 ギルドの素材の買い取りは裏口で行なわれていました。

 魔物の死骸を運ぶ運び屋さんの後をついて行ったら、そこについたのです。

 ホーンラビットは一匹で大銀貨2枚になった。 

 5匹で金貨1枚でした。

 予想以上の売上になりました。

 程度の良い毛皮は高く買い取れるそう。

 アイスニードルで仕留めたのが良かったらしい。

 宿屋に戻り、明日は運び屋を雇おうと話がまとまった。たぶん、今日の調子から見て、大物を狩れるでしょう。

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