第34話 隣にいる咲
「ねえ悠真、今日も泊まって良いでしょ? 泊まって良いのねオッケー!」
「勝手に決めつけるな! ってちゃんと泊まりグッズ持ってきてるのかよ……! お前の家隣なんだから帰れば良いだろ!」
「やだ! 悠真ともっとイチャイチャしたい!」
本当に何言ってるんだこいつ……。
お隣さんなのに俺の家に泊まる意味って何だ?
ただでさえメリーがいるのに、咲まで来たら部屋が狭くなるんだよな。
しかも最悪なのは……咲は絶対に俺のベットに忍び込んで寝る。
そもそもメリーがいる時点で狭いのに、咲なんて来たら狭すぎて間に挟まれる俺が潰れてしまう。
『――――じゃあ、メリーはちょっとだけお出かけしてきますね』
「おう? 今日はどこか行くのか?」
『今日は久しぶりに友人に会うんですよ! それも半年ぶりです!』
「おーそうか。分かった、楽しんできてな」
『はい! では行ってきますね! 咲さん、ゆーまくんに変なことしないでくださいね?』
「ししし、しないわよ?」
反応がバレバレすぎる。
この後、俺はどうなってしまうのか心配でならない。
そう思ったのも束の間だった。
メリーの姿が遠くなり見えなくなった瞬間、咲は上目遣いで俺を見つめてきた。
「――――」
「な、なんだよ?」
「最近メリーばかり構って寂しいから、わたしも構ってほしいな〜」
「俺はお前の父親じゃないからな?」
「違うっ! 父親目線でわたしを見ないで! せめて、せめて1人の女の子として見て欲しいなぁ」
「――――」
くそっ、なんでそんな可愛い顔で俺を見つめてくるんだ?
俺だから良かったけど、他の男にその顔をしたら一瞬にしてメロメロにさせてしまうだろう。
あとちょっと前に分かったことだけど、こいつ意外に性欲強いからそのまま襲うに違いない。
そして2人でベットの上でイチャコライチャコラしてるんだろうな。
って、そんな妄想はしなくていい。
「ねえ悠真……遊ぼ?」
「――――はあ、分かった。でも1つ忠告しておくけど、その聞き方俺だから良いけど、他のやつにするんじゃないぞ?」
「何で?」
「いやだって……それで男が引っかかって咲についてきたら大変なことになるからな。それに……お前意外に性欲強いから何するか分からないし」
「――――っ!? わ、わたしが性欲強いって言ったよね今! わたしはそんなに強くないから!」
「いやあの、お前さあ……気づいていないだろうけど、トイレの中から思いっきり聞こえているからな? しかも結構頻繁に。あれに耐えてる俺のことも考えてくれ……」
「――――!?」
まあ俺たちは高校生だし、そういうのに興味があるのは男女共にあるのは分かるんだけど……他人の家でするのは本当にやめて欲しい。
ここは咲の自宅じゃないんだから……。
リビングに用がある時は家の構造上トイレの横を通らなければ行けないんだけど、咲がトイレにいる時はほとんど聞こえている。
咲に特別な感情を持っていない俺でも、男だから咲のいやらしい声を聞いたら色々反応してしまうから抑え込むのに毎回大変な思いをしなくてはいけない。
「へ、変態!」
「いやそんなこと言われてもな……。お前のほうが変態! って言いたいって思ったけど、もう本人の前で言ったからそれでいいや」
「うぅ……。なんで聞かれてるのよ……」
いや、そう思うのなら他人の家でするのはやめろって。
咲はぺたんと座り込んで、恥ずかしがりながら泣きそうな顔をした。
ほんっとに馬鹿だなこいつ……。
こいつが俺の幼馴染なのが信じられない。
「でも……他の男を誘うようなことをするっていうのは訂正させてもらうわね」
「は?」
「その……わたしは悠真にしか興味がないから……そういうことは悠真にしかしないから!」
「――――!?」
まただ……どうして咲は俺みたいなやつに好意を寄せてくるんだ?
俺に好意を寄せたところで、俺は本面倒くさがり屋だし、ゲームに没頭してるようなやつだぞ?
魅力的なところなんてどこにもない気がするんだけど……。
「悠真っ!」
「うわっ! ちょっ、咲!?」
そう思っていた瞬間、いきなり咲に抱きつかれた。
後ろからではなく真正面からだ。
俺は驚きすぎて固まってしまった。
「悠真、この前も言ったけど、わたしは本当に悠真のことが好きなの。幼馴染とかじゃなくて1人の男として。本当は今すぐにでも悠真と付き合いたい。でも、今は我慢しているの」
「――――何でだ?」
「だって、ここにはメリーがいるから。あの子だって悠真のこと好きなの分かってるから」
「――――?」
どういうことだ?
メリーが俺のことを好きだって分かっているのなら、尚更俺にアピールしてくるのが普通だと思うんだけど……。
「メリーはいつでも悠真の傍を離れる感じ全くしないけど……でも、さっき言われたんでしょ? もう、メリーと居られる時間は少なくなってきてるって」
「――――」
咲にそう言われ、俺は一瞬戸惑った。
聖斗からメリーをその場で消滅されることは何とか免れたが、聖斗が姿を消す直前、俺の頭の中でタイムリミットが告げられている。
タイムリミットは残り半年。
そう、メリーと離れ離れになるリミットは迫り始めている。
正直、咲には口に出しづらかった。
「なら……わたしは良いから、メリーを優先してあげてほしいの。わたしもメリーのことは大事にしていきたい。だから、メリーがいなくなってしまうまで、あの子の気持ちに応えてあげて! これはわたしからのお願いよ」
「お願い、か……」
それは俺も同じ考えだった。
あの時電話を取って、それでメリーと出会ったのはかなりの偶然だったかもしれない。
もしあの時俺が迷惑電話だと疑って出なかったら……。
いや、そうしたらメリーが逆に俺のところに凸ってたかもしれない。
結局はメリーと出会ってたかもしれないけど、メリーと一緒に過ごすようになってから俺の生活はガラリと変わった。
もちろん咲もいるが、こんなにワイワイと騒がしい生活をしているのは初めてだった。
だけど、騒がしいけど面白いし楽しい。
それほど、メリーの存在は大きいと思った。
だからこそ、残り時間が刻々と迫っている今を大事にしたい。
メリーともっと関わっていきたい。
それは咲も同じだと思う。
「――――分かった。咲の言う通り、メリーの気持ちには俺のできる限り応えるようにする。どうやら、俺と咲の考えは同じみたいだからな」
「――――! ほ、本当!? やっぱり、わたしたち気が合うね! 悠真、今からわたしと付き合って!」
「それはごめんだ」
「何でよぉ!」
俺に抱きつこうとする咲の顔を手でガードした。
頬が潰れてだらしない表情になっているが、そんなことは別にどうでも良い。
「もが! もがが!」
「あーうるさい咲!」
「もがーもがががががが!」
「はいはい分かったから」
しつこいから、咲の口から手を離した。
咲は大きく肩で息をした。
「はあ、はあ……。じゃあ悠真にもう1つお願いがあるの」
「願いは1つしか叶えられないっす」
「良いから聞いて! さっきのも大事だけど、これも大事なの!」
「――――一応聞く」
「悠真……メリーと恋人になって」
「――――は?」
「メリーの恋人になってあげて悠真」
俺は耳を疑った。
俺が? メリーの恋人になる?
でも、咲の目を見れば分かる。
これは嘘ではなく、本気で言っているんだと。
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