第33話 居場所
『――――』
「何故黙るんだ? ちゃんとした理由があるなら説明できるよな?」
聖斗は俺の顔を見ながら下唇を噛んでいた。
そうか、これでようやく分かった。
「聖斗お前さ、メリーと一緒にいる俺が羨ましいんだろ?」
『――――っ!』
ほら、この反応は図星だ。
しかも顔を赤くしながら顔を俯いているこの感じ……メリーにぞっこんだな。
これで何故聖斗が俺の背後で分かりやすいまでのオーラを出しまくっていたのかが理解できた。
聖斗は……メリーを自分のものにしたかったのだ。
『そうだよ……。僕はずっとメリーと居たかった。僕はあの子を愛してるからだ! なのに! 悠真のところにいるのが恨めしかった。それで、今日悠真を脅そうとしたんだ』
「――――」
やっぱりそうか。
――――なんか腹が立ってきたなぁ!
「じゃあ俺から1つ聖斗に教えてやるよ。聖斗ももちろん実体化できるよな?」
『う、うん……。うわあ!?」
聖斗が実体化した瞬間、俺は聖斗の胸ぐらをつかんで俺に引き寄せた。
俺の顔は多分恐ろしいことになっているだろうな。
「お前さ……自分の権力を使って全てを支配できると思うなよ?」
「――――!?」
「メリーが好きだからだって? 愛してるだって!? そんなもの自分の力で勝ち取れよ!」
俺はもう止まらない。
こんなに苛ついたのは人生で初めてだった。
身分が上だからといって、自分のものにしようとする聖斗が俺は許せなかった。
努力もせず、メリーを振り回そうとしているこいつのことが本当に許せなかった。
「俺は許さねえぞ……。俺をこんなに怒らせたことを後悔しろ。こうなったら俺は収まるまで時間がかかるんだ」
「ご、ごめんね悠真! 約束するから! メリーにはもう手を出そうとは思わないから!」
「あ?」
「ひっ……!」
「そんなこと言っても信用できないんだよなぁ」
威圧をかける俺を見て、聖斗は怯えていた。
体を小刻みに震えさせ、額に青筋を立て、今にも泣きそうな顔をしている。
しかし、それでも俺は止まらない。
実体化している今の聖斗なら一発殴れる。
そう思った俺は拳を作り、思いっきり聖斗に振り落とした。
「ゆ、ゆーまくん!?」
「悠真! ちょっ、何してるの……ひっ!? な、何あの幽霊……」
もう少しで聖斗に俺の拳が当たろうとした瞬間だった。
階段を降りてくるメリーと咲の声が聞こえ、俺ははっと我に返った。
知らぬ間に実体化していたメリーは俺のもとに駆け寄った。
そして、咲は恐怖のあまり階段を降り終わったと同時に腰を抜かしてしまった。
霊感が強い咲だから、聖斗がどれだけヤバいやつなのかが良く分かる反応だった。
「――――もしかして、聖斗さん? ゆーまくんに何の用ですか?」
メリーの表情がガラリと変わった。
普段見る彼女の顔じゃない。
相手を威嚇するような厳しい目をしていた。
「い、いや……用があったのは悠真じゃなくてメリーだよ」
「メリーに、ですか? 早く言ってください。メリーはこれからゆーまくんともっと遊びたいのです」
メリーは俺に体を密着させると腕を絡ませた。
メリーの柔らかいものが当たって俺の心がヤバいとか、そんな事を考えている余裕はない。
「メ、メリー? メリーはそんなに悠真のことが好きなのかい?」
「それはもちろんそうです! ゆーまくんは……メリーを救ってくれました。それにいつも優しくて楽しくしてくれる。そんなゆーまくんのことがメリーは大好きです! メリーはゆーまくん依存症を患っているのです!」
いやいや、ゆーまくん依存症って何だよ……。
それにほとんど俺に告白してない?
こんな緊迫した状況でさらっと告白するメリーのメンタルって……やっぱり幽霊ってすげぇ〜。
「そ、そんな……依存症を患っているなんて……。僕は……僕は一生メリーの心を掴むことは出来ないの……?」
いや、メリーの最後の言葉に違和感を持つどころか納得しちゃってるのかよ……。
聖斗はバカなのか?
いや、ほとんど関わりがないとは言い切れないけど、それでも明らかにメリーが聖斗の姿を見るのも嫌がっているというのに、それでもメリーを自分のものにしようとするなんて……。
やっぱり幽霊ってすげぇ〜。
「――――聖斗、だっけ? あなたがメリーのことが好きなのは分かったわ。でもね、その想いはもう叶わない。メリーはね、自分で決めた大切な人がここにいるの。だから諦めなさい」
「ちょっ! お前までくっつくなって!」
「良いじゃない別に。わたしだって悠真のこと好きなんだからね!」
そう言って、咲まで俺の腕に腕を絡ませる。
もう完全にハーレム状態じゃん、二股状態じゃん。
羨ましいって思ってるかもしれないけど、案外結構息苦しいしつらい。
美少女に囲まれて、決して嬉しいとは限らない。
「そう、だったんだ……。じゃ、じゃあ僕はこれで失礼するよ……」
聖斗は完全に落ち込んだ様子のまま姿を消してしまった。
いや、メンタルめっちゃ弱いじゃん……。
もうちょっと男らしくグイグイ行っても良かったんじゃない?
「ゆーまくん」
「んあ? ごめん考え事してた。どうした?」
「メリーは絶対にゆーまくんから離れませんからね。あんなふうに誘われても、メリーはゆーまくんしか興味がありませんから。だから、メリーはゆーまくんのこと……好きになり続けても良いですか?」
「メリー……」
上目遣いで聞いてくるメリーに、俺はドキッとした。
こんな表情をしているメリーを見たのはいつぶりだろう。
あ、そうか、それこそメリーと初めて会った時だ。
突然電話がかかってきて、いつの間にか玄関にいて、そしていつの間にかキスされてて……。
全く……ずるい幽霊だな。
「――――っ!」
「――――!? ゆ、ゆーまくん!?」
俺は思わずメリーを抱きしめた。
「もちろんだメリー。俺のこともっと好きになってくれて構わない。だから、これからも俺の傍にいてくれないか?」
「――――! ゆーまくん! ゆーまくん!」
あっという間にメリーの目からは涙が溢れ出し、そのまま俺を抱きしめた。
鼻を啜りながら、メリーは何度も俺の名前を呼んだ。
「あのー、わたしの存在忘れてない?」
「「――――!」」
俺とメリーははっとすると、すぐに解いた。
咲はため息をすると、俺に歩み寄った。
「さ、咲どうした? そんなに俺を見つめて……」
「――――やっぱりわたしの選択肢は間違っていなかった。さすがわたしが見込んだ男!」
そう言うと、咲はいきなり俺の顔に手を触れた。
そしてそのまま顔を近づけてきて……唇同士が触れた。
「――――!?」
「んっ……今度はわたしを守ってね!」
「ああ! 咲さんだけずるいです!」
咲を追いかけるメリーと、逃げるように2階に上がる咲。
俺はその2人を見つめたまま呆然と立っていた。
また、2人に心を奪われてしまいそうになっていた。
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