第32話 ファイナルターン
俺の勝利が確定した途端、空気が和み始めた。
咲は天井を見上げた。
「そういえば……わたしたち、何でこんなに本気になっていたのかしら?」
『確かにそうですね。メリーも気づいたら本気になってしまいました。なんだか……一気に力が抜けました』
「ポーカーって結構……」
「「『闇深い……』」」
俺たちは口を揃えてそう言った。
そして、お互いに顔を合わせると、思わず吹き出して笑った。
今までの空気は何だったんだと思うくらい、緊迫した空気からいつもの空気に変わった。
「はあ〜、なんだかわたし疲れちゃった。甘いもの食べたい!」
「そうだな。じゃあ、飴玉持ってくるよ」
「頼んだ悠真ぁ〜」
咲は手をブラブラと振りながら、疲れ切った声でそう言った。
俺は立ち上がって部屋を後にする。
階段を降りてリビングに入ると、俺は立ち止まった。
そして、ずっと俺の後ろにいるやつに話しかけた。
「――――おい、隠れてても無駄だぞ。聖斗」
『あはは! バレちゃってたか……』
「そんなに怖がらせるようなオーラを出して、一体俺に何の用だ?」
俺が聖斗にそう聞くと、聖斗は俺の前まで歩み寄る。
そして、俺の顔にぐっと近づいた。
「――――っ! 俺を呪い殺そうとかしないよな?」
『まさか、僕はそんなことはしないよ。まあ、出来ないことはないけどね』
さらっと恐ろしいことを言ったな……。
だけど、そんなことはどうでもいい。
俺が一番疑問なのは、何故俺やメリーたちを監視するように見ていたのかだ。
わざわざここまで来ていたということは、絶対に理由があるはずだ。
『良いところに疑問を持ったね悠真』
「いや、そのくらいは誰でもそう思うだろ。で、俺に何の用があるんだ? まずはそこを聞きたい」
『せっかちだね〜。もうちょっと楽しく話をしたかったんだけど……。じゃあ、本題に入るけど……君、何でメリーと一緒に過ごしているの?』
いきなり聖斗の雰囲気が変わった。
子どもらしさがある聖斗から、まるで頂点に君臨する敵なしの王のようだった。
「それは……」
『隠しても無駄だよ。僕は悠真の心を読めるからね』
「くっ……! だけど、仕方ないだろ! メリーも事情があってここにいるんだ。別に良いだろ」
『別に良い? 悠真はひどく勘違いしているようだね』
「は?」
すると、聖斗は俺から一旦距離を置いた。
そして、左右に歩きながら続けた。
『じゃあ1つ質問をするね。悠真は生まれてから今日まで霊感あったの?』
「――――!?」
言われた瞬間、俺はハッとなった。
聖斗に言われるまで、俺は全く気づかなかった。
確かに、俺はいつの間にかメリーを見ることが出来るようになっていた。
そうだ、初めて聖斗と出会った時もそうだった。
俺はすぐに気配を察知して、聖斗がいる姿もすぐに見つけることができた。
俺はもともと霊感なんて全くなかったはず……。
なのに、何故俺は霊が見えるほど霊感が強くなってしまったんだ……?
『それは簡単な答えだよ悠真。君の傍に居座る、メリーという幽霊がいるからだよ』
そう言った瞬間、聖斗のオーラが一気に変わった。
俺は今にも尻もちを付きそうなくらい腰が抜けそうになっている。
でも、それでは聖斗の言いなりになってしまうだろう。
俺は今にも恐怖で脱力してしまいそうな脚を必死に抑えていた。
『僕はこんな幽霊初めて見たよ。まさか、君に恋をして居座るようになったなんてね。普通なら生きている人間に取り憑いて、自分と同じ境遇に引きずり込んだりするんだけどね……。メリーのように、死んで彷徨っている人間が、生きている人間に恋するなんて異例だよ! 聞いたことがない!』
聖斗は頭を抱えながら、強い口調で話す。
聖斗が言いたいのは恐らく、メリーみたいに生きている1人の人間に恋をして居座り続けるというのは前例がないということだろう。
聖斗は彷徨う幽霊の頂点に立つ王のような存在で間違いないだろう。
そして、幽霊でも生きている人間と同じく、法律のようなルールが存在しているのだろう。
「で、聖斗はメリーをどうする気だ?」
『そんなのはもちろん一定の人に、取り憑くのではなく自分の意志で居座るのは違反だからね。すぐにメリーをこの場から消すよ』
何でだろうか。
聖斗のその言葉を聞いた瞬間、俺は怒りに燃えていた。
本当は聖斗の胸ぐらを掴みたかったけど、相手は生きていない人間。
掴むこともできない。
俺は大きく一歩を出し、聖斗の眼の前まで迫った。
「おい」
『――――!?』
「じゃあお前さ、何故あの公園にいつも居座ってるんだよ?」
『な、なに急に……。僕は子どもたちと遊ぶのが好きだったからだよ。今もそれは変わらない。見ているのも好きだから公園にいることが多いんだ』
「そうかそうか。じゃあ聖斗はメリーと同じことをしているのに、メリーを消そうとしてるってことか」
『――――! ち、違う!』
自分自身も驚いていた。
こんなに怒りがこもった言葉を人に言ったことなんてなかったからだ。
俺もおかしくなってしまったのか……。
これもメリーのせいかもな。
『僕はあそこが居場所だから! 生きている人間と接することはないし、誰かとともに暮らすことは絶対にしない。でも、メリーはそれをしてしまっている。それが僕ら幽霊になった者にとっては違反行為なんだよ!』
「その法律っていえば良いのかわからないけど、間違っていると思うけどな」
『――――!?』
「幽霊だってもともとは俺らと同じ生きている人間だったんだろ? 聖斗だってそうだったし、メリーだってもともとは俺と同じ生きている人間だったんだろ? なら何故居場所を奪う必要があるんだ? 俺が納得する説明をしてくれれば納得してやるよ」
『そ、それは……』
俺の質問に、聖斗は言葉を詰まらせた。
聖斗はずっと公園に居座っているのに、何故メリーはダメなのか意味が分からなかった。
それはあまりにも不公平すぎる。
たとえ聖斗が王だったとしても、莫大な権力を持っていたとしても、俺は許せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます