第31話 追い上げを見せる咲

「スラッシュ!」


「スラッシュ!」


「フルハウス!」


「なっ!?」


『咲さんが強くなってますよ!?』


 あれ?

この展開さっきもあったような……。

22回戦目から、咲は驚異の追い上げを見せていた。

3回連続で強い役を揃えてきたのだ。

 これに対し、メリーは運を使い切ったのかノーハンドが多くなってきた。

表情からかなり焦っているようだ。

ちなみに俺はちょっとずつ盛り返してはいるけど、咲で競り負けている状態。

勝利の数は変わらず、敗北の数が積み重なってるだけだ。


「うーん、このままだと結構良い勝負になりそうだな」


『最後の本気の戦いっていうやつですね!』


「楽しくなってきたじゃない……。このまま突き進むわよ!」


 俺を含めた3人はお互いに闘志を見せた。

もう完全に遊びからカジノへと現場は変わった。

ここからは、命を賭けてでも勝ってやる!


「さて、残りは5ターンだな。じゃあカード配っていくからな」


 26回戦目が始まった。

ちなみにそれぞれの勝利数は、俺が11勝、メリーが8勝、咲が4勝となっている。

咲は負け確定だが全勝すればメリーと並ぶ可能性はある。

メリーは、このまま勝ち進めれば俺を抜いて1位になれる可能性がある。

そして、俺は何とか逃げ切って1位を取りたい……!

それぞれが何としても勝ちたい局面だ。

 俺がカードをシャッフルする音だけが部屋に響き渡る。

これのせいで余計緊張感が増し、今にも心臓が飛び出そうなほどバクバクいっている。

変な汗もかいてきた。


「――――じゃあ、配っていくからな」


「――――」


「――――」


 だから2人とも返事してくれ……!

黙り込むから余計緊張感が増すから!

って、思ったところで、2人も相当緊張しているから黙り込んじゃうのだろう。

だって、俺もそうだからな……。

 カードを念入りにシャッフルし、時計回りにカードを配っていく。

カードの山から取り出す擦り切り音が部屋の中で微かに鳴り響く。


「――――よし、じゃあ開いていいぞ」


 俺がそう言うと、メリーと咲は黙ってカードの中身を見る。

終盤に差し掛かるターンが今始まった。

 2人がカードの中身を見たことを確認した後、俺もカードの中身を見る。

どうか……!

どうか、最初から良い役来てくれ!

中身は……。




ハートA、ダイヤA、クローバー9、クローバー4、ダイヤQ




 とりあえず1ペアはいけそうだ。

今は流れが悪いから、強い役を狙おうとせず、あえて交換はしないで2人がノーハンドになることを願うとしよう。

じゃあ、2人の様子を見てみるとする――――


「悠真! 2枚交換!」


「――――!? お、おう……」


 びっくりしたじゃねえか……!

いきなり大声出さないでくれ……。

 顔の表情から賭けに出たのか、咲は2枚交換する。

今流れに乗っている状態で、このまま全勝を狙いたいようだ。


「ゆーまくん! メリーは1枚交換お願いします!」


「――――!? お、おうぅ……」


 だからびっくりするから大声出さないでくれ……!

メリーも……賭けに出たようだ。

しかも1枚だけということは、かなり良い役を持っているのだろう。

俺はカードの山からカードを1枚メリーに渡した。

うーん……やっぱ2枚くらい交換したほうが良かったか?


「それじゃあ……良いか?」


 2人は黙ったままコクリと頷いた。

俺は固唾を飲んだ。


「それでは……オープン!」


 3人同時にバッとカードを見せた。

俺は1ペア、咲は……2ペアか。

そしてメリーは……2ペア。


「咲とメリーが互角か。あとは数字の勝負だな」


 ポーカーは同じ強さの役の場合、数字の強さで勝負する。

ポーカーの場合、Aが一番強く、2が一番弱い。

そして、2ペアの場合はペア以外のカード、キッカーの数字で勝負が決まる。


「咲。ペアが出来ている以外の数字は何だ?」


「わたしは……8ね」


「8だな。じゃあメリー。メリーはペアが出来ている以外の数字は何だ?」


「メリーは……」


 その瞬間、一気に緊張が高まった。

心臓の音が耳に鳴り響くぐらい、バクバクいっている。


「メリーは……4です」


「なら、この勝負……咲の勝利!」


「やったぁー!!!!」


 咲は飛び跳ねて喜んだ。

反対にメリーは絶望に満ちた顔をする。

おっかしいなあ……。

何度も言うけど、もともと遊びで始めたはずなのに、いつの間にかカジノに変わっているから、本気にならざるを得ない。

ラスベガスでカジノをやっている人の気持ちってこんな感じなのだろう。


「よし! このまま全部勝てばメリーに並ぶわね。覚悟しなさい!」


『ぐぬぬ……! 次こそは勝ちます! 勝って1位になるんです!』


 火花を散らすメリーと咲。

喧嘩をするほど仲が良いなのか、喧嘩をするほど仲が悪くなるのか、どっちなのかよく分からん……。

俺は喧嘩をするほど仲が良いのほうに1万円を賭ける。


「さて……じゃあ27回戦目始めるぞ。カード回収するからな」


「はーい! 絶対に勝つんだから!」


『メリーも負けません!』


「俺も負けてられないな!」


 この後も激戦を繰り広げた俺たち。

27回戦目はまたもや咲の勝利、28回戦目は俺とメリーの3カード勝負の末メリーの勝利、29回戦目は俺と咲の1ペア勝負の末、俺の勝利となった。

これで俺は12勝、メリーは9勝、咲が6勝となり、俺の勝利は確実なものとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る