第21話 安堵

 咲はこの後用事があるようで、手を振りながら俺の家を後にした。

カチャリとドアが閉まる音がすると、俺は大きく息を吐いて安堵を覚える。

 な、何とか乗り切ることが出来た……。

咲がいる間どれだけ自分を抑えまくっていたことか、みんなは分かるか?

行いを終えた後、安心しきって油断したままドアを開けたら、急に咲が着替えているところが眼に入ってしまったり、時々俺を誘惑してくるようなことを言ってきたりするし……とにかく大変だった。

今までこんなことをしてくるやつではなかったはずなのに、何故急にこんなことをしてくるようになったのだろうか。


『昨日今日と、咲さんは随分と積極的でしたね』


「全くだよ。どうしてあんな子になっちゃったのか……」


『意外にも鈍感なんですねぇゆーまくんは。そんなの答えは1つに決まっていますよ。メリーがゆーまくんの家に来たからですよ?』


「メリーが……俺の家に来たから?」


『今まではあんなことしなかったんですよね? メリーが来てから咲さんはどう変化したか、ゆーまくんにもわかるはずです』


「メリーが来てから変わったこと、変わったこと……」


 俺は今までのことを振り返ってみる。

メリーが俺のところに突然来て、その次の日には登校中に咲はメリーの姿を見て怯えていた。

その後、咲は俺に突然告白をしてきて、俺のことが好きだと言った。

んで、昨日今日の出来事がある。


「変わったことが多すぎて逆に怖くなってきた……」


『そう、それですゆーまくん。メリーが現れたことで、咲さんはゆーまくんを奪われたくないがために必死になりすぎてしまっているんですよ。その結果がこれです』


「俺に急に告白してきたのはそういうことだったのか」


『おそらくメリーに対抗するためしか考えられません。ただ、ゆーまくんに対して恋愛感情を昔から持っているのは確かです』


「咲が、ねえ……」


 メリーが言っていることは確かに合っている。

今まではただの幼馴染で唯一の友達として普通に接してきた。

遊びに行くこともあったし、家にお邪魔したりされたりとかなり交流は多い方だが、幼馴染ということもあって、お互いに恋愛感情を持つことなど1回もなかった。

 しかし、メリーが加わったことで一変。 

メリーに負けたくないからという理由で突然俺に告白し、その途端に俺の家に泊まることが増えた。

 そして昨日と今日の出来事だ。

メリーがいないと分かった瞬間に俺を求め始めた。

咲が自ら俺の手を掴んで胸を揉んだり、あのドロッとしたものを触らせたり……。

そして、今朝は俺に裸を見られて発狂するかと思いきや、まさかの大歓迎で俺を無理やり引っ張って誘惑してくる言葉を何回も聞かされた。


「最近の咲まじ怖ぇ……」


 本当にゾワゾワと寒気がして鳥肌が立った。

『氷花姫』という異名を持っている彼女だが、それよりも怖かった。

これなら普段学校で塩対応で冷たい咲の方がよっぽど良い。

 しかし、そう思っている反面……。


(もしかしたら、俺のせいなのかもしれない……。俺のせいで咲を狂わせてしまったのかもしれない……)


 と考えてしまう俺もいた。

正直な話、今みたいな咲は見たくなかった。

前の咲の方が今より接しやすかったし、楽しかった。

学校では氷のように冷たい態度をとっているが、普段は結構明るい性格で話しやすいやつだ。

 だが、今の咲となると何もかも話しづらい。

いきなり過度な好意を寄せられても俺は困るし、どう対応すれば良いかわからなくなってしまう。


「聞きづらいけど……1回話してみても良いのか、な……」


『それもありますけど、結構リスクは大きい気がします……』


「大丈夫だ。咲は結構正直に話してくれるやつだから。明日ここに呼び出して聞いてみようか」


『なら、メリーはどこかでお散歩してますね。咲さんは霊感が強いので隠れていてもすぐバレるでしょうし』


「よろしく頼むよ」


 よし、ならあとは明日実行するのみ。

結構緊張してる? と言われると否定は出来ない。

俺がしようとしていることは、咲の奥底に眠っているものを掘り出すようなものだ。

もしかしたら好感度はだだ下がり、最悪の場合は疎遠となってしまうというかなりリスクを背負っているため、責任が俺に重くのしかかっている。

 だが、俺は幼い頃からずっと咲と一緒に行動を共にしてきた。

全部は知らなくても、8割以上は咲のことを理解しているつもりだ。

だから、ここは幼馴染として俺が何とかしてあげないと咲が大変なことになってしまう。


「じゃあ、咲さんが帰ったところで早速メリーを甘やかしてください!」


「あれ!? いつの間にか実体化してる!」


「2人だけの時は実体化しますよ。だってその方がメリーはゆーまくんのぬくもりを感じることが出来るんですから」


「わかったよ。メリーが満足するまで甘やかすよ」


「わーい!」


 甘やかすといっても、一緒に遊んだりメリーのワガママに付き合うだけだ。

だが、これが意外に楽しい。

まるで子どもに戻ったかのような気持ちになれるからだ。

たまにメリーが攻めすぎて大変なことになってしまうこともあるが……。


(はあ……咲ともこんなふうに普通に遊べたらいいのにな……)


 と、心のなかでため息をつきながらそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る