B子 1

初めて会った日から様子はおかしかった。

常に落ち着きがなくソワソワキョロキョロとしている。

問い詰めると『薬』と白状した。


ハッキリ明確には言わなかったが、それが違法な薬物だと察することはできた。


ケミ*1 使用者と関わるのは危険だ。

常用するには、普通の仕事をしているだけではとても用意できない金額が必要だ。

つまり常に金欠であり、薬かお金を手に入れる方法に貪欲で無差別である可能性がある。


幸せを超高利で前借する薬。


接種した後、しばらくは全てにおいて万能になった≪気がする≫のだ。

自慰や性交中は常に絶頂しているかのような快感で気を失いそうになる。

ベッドの上でジャンプすれば、その度に超高度バンジーをしている気分になる。

どんな難解な本であっても自分の知っていることしか書いていないように思い込み天才にでもなったかのような気分になれる。

自分は何て最高で完璧な存在なんだ。

どうして自分は今までこんな気持ちを知らなかったんだ。


それらがゆっくりと消えてゆく。


最高がゆっくりと自分の手から離れてゆく。


最後に残る≪現実≫があまりにもつまらなく感じる。


それまで当たり前に過ごしていた現実が≪現実的過ぎて≫耐えられなくなる。


あんなに気持ちよかったのに

あんなに高く飛べたのに

あんなに天才だったのに

あんなに≪目が覚めていたのに≫


そうか、あの薬があればいいんだ。


手首から肩まで、脛から太腿まで、四肢にズタズタの横線が入っている彼女。






*1 ケミ=ケミカル系ドラッグ 覚醒剤やコカインなど。≪白≫と呼んだりもする。 

  ナチュラル系ドラッグは、大麻やマジックマッシュルームなどのこと。≪緑≫と呼ばれたり。

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