幕間 皇女様の憂鬱
私はアナスタシア。王政を敷くソヴィエトでの第二皇女。私が望んだものは何でも手に入ってきた。
それなのに……こいつときたら。
医務室のベッドで眠ったまま起きない司に目をやる。さすがにもう2日も起きていないと心配の方が他の感情より大きくなる。
「早く起きなさいよ。ばか。」
人差し指で司の頬をぐいと押す。しかし反応は返ってこない。
「アナスタア様、もう授業始まってしまいますよ。」
「敬語はやめてって何度も言ってるでしょ、澪。」
「はい、分かりました。」
「だからそれだって……」
澪の後について教室に向かう。当然最上位クラスのAクラス。
こんなはずじゃなかったのにな。教室に入りながら思う。
「アナ、おはよう、今日もいい天気だね。」
「えぇそうね。」
入室早々に声を掛けられる。京極迅。この学校の生徒会長の弟らしいんだけど、大分うっとおしい。いや、多分そう思う原因はこいつのせいだけじゃないんだけど……
「おい、授業始めるから席につけ。」
時間ギリギリだったためすぐに教師が来て授業を始める。
退屈だ。中学レベルの理論をただ板書するだけの講義。
留学する前にお父様に言われたな。東京校にしておけって。確かにこのレベルなら反対する理由も理解できる。
だけど反対を押し切って札幌校を選んだのにも当然理由がある。
小さい頃、私は日本にいた。まだ皇太子だったお父様が外交大使として日本に駐在していたからだ。当時の私はまだ体内の魔素をコントロールできなくて、ほとんどの日を病院の一室で過ごしていた。当時の私の世界は、白い病室の一室だけだった。
そんな私の世界を広げてくれたのが司だった。
ある日父親と一緒に挨拶に来た司は、私なんかよりもずっと外の世界のことを知っていて、大人びて見えた。
それ以来よく遊びに来てくれて、その日あった出来事とかをいろいろ話して聞かせてくれたなぁ。今使ってるACAだって、司がくれた指輪をもとに機能を付与してもらったものだ。日本を発つときには私だけじゃなく司だって大泣きしてて……
それなのに。
私のことを一目見ても分からないだけなら許せた。当時からはだいぶ成長しているし。だけど名乗っても『知らない』はありえないじゃない。
もっと素直になって、ちゃんと話して思い出してもらえばよかったのかな。いやでも当然覚えてないなんてありえないしいし、でもそれならなんでわざわざ忘れたふりなんか……
「おい、迅。能力の発動条件は覚えているか?」
「はい。十分な量の魔素、それを調整する技術かACA,そして個人ごとに異なって備わっている発動端子です。」
「よく覚えているな。さすが颯の弟だな。期待しているぞ。」
低レベルな授業に低レベルな生徒。そのくせしてなぜか低ランク能力者を馬鹿にしたがる。私から見たらどっちも似たようなレベルなのに。
それにしてもどうして司は炎なんか使ったんだろう? よくお人形を動かして遊んでたから、皇家のサイコキネシス使えないなんてことはないと思うんだけど。
「じゃあ今日の授業はここまでだから、復習に励むように。」
チャイムが鳴ってしばらくして授業の終わりが告げられる。これで座ってるだけの煩わしい授業からも解放される。
「アナスタシア様、お昼ご一緒しませんか?」
「待てよ、お前らは昨日一緒に食べてただろ。今日は俺らと食堂行きましょうよ。」
ここにくれば司と同じ教室で3年間過ごせると思っていたのに。
あぁ、憂鬱だ。
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劣等能力者は2人で最強 創紀 @soki-123
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