土属性VS土属性(5)

「お前だけは絶対許さない!」


 阿蓮に向かって突撃する京が怒鳴ると、彼の周囲に人間の手の形をした巨大な岩の塊が二つ出現した。


 土属性式祈神スキル「岩掌」。


 岩の掌を作り出して操る、加登京が目覚めて自分の二つ名にした式祈神。


 岩掌は決して珍しい式祈神ではなく、京以外にも陰陽師になった際に目覚めた式祈神が岩掌だった陰陽師は大勢いるし、式器神ウェポンユニットで使用している陰陽師も多い。だが操作がし易い上に攻撃から捕縛と応用できる範囲が広いため、使い手の技量では様々な使用法があり高い戦闘力を発揮する。


「くらえっ!」


 京は自分が作り出した岩の掌の一つを握り拳の形にすると、阿蓮に向けて高速で飛ばした。岩掌で作り出した岩の掌は陰陽師の力量次第では金属よりも硬く、直撃すれば式着神アーマーユニットを装着していてもただではすまないのだが、阿蓮は微塵も動揺せずに迫り来る岩の拳を見つめていた。


「片方の手で隙を作って、もう片方の手が本命か……ん?」


 阿蓮がそう呟いた次の瞬間、迫り来る岩の拳がいきなり動きを止めて手を開き、続いて五本の指が彼を取り囲むかのように伸びる。


「っ!? な、何ですか、あれは!?」


「陰陽師はあんなこともできるのですか?」


 京が放った岩の掌の動きを見て、離れた場所から観戦していた爆竜の女性達が驚き、路ノ三と池ノ伍が思わず声を上げる。しかし阿蓮は特に驚くことなく岩の掌から伸びてくる五本の指を見ていた。


「ああ、牽制じゃなくて拘束するつもりか。これも基本だな。……だけど甘いな」


 阿蓮の言葉を合図にしたかのように、五本の掌の指は彼に届く前に突然爆発して、その衝撃によって指だけでなく掌も砕け散る。


「爆発!? 一体どうして……って、あれは?」


 京は自分が放った岩の掌が爆発して砕け散ったことに驚愕で目を見開いた後、阿蓮の周囲に無数に黒い泡が浮かんでいることに気づく。


 土属性式祈神「焼泥」応用技「泡牢」。


 焼泥で作り出した油を泡にして周囲に浮かべ、泡に触れた相手を爆破して燃やす応用技。


 本来なら酸素の無い宇宙空間では爆発は起こらないのだが、式祈神によって作り出された物質は陰陽師の精神力を具現化したもので、物理法則を無視した超常現象を引き起こす。そして阿蓮の式祈神が起こした超常現象はまだ終わりではなかった。


「今度はこっちの番だ」


 阿蓮が意識を集中すると、今の爆発で砕け散り炎に包まれた岩の掌の破片が京に襲いかかる。


 土属性式祈神「焼泥」応用技「炎操」。


 焼泥の油は爆発した後も、対象に付着して油が全て無くなるか、阿蓮が式祈神を解除するまで燃やし続ける。その燃えながら対象に付着している油を操作することで、対象の動きを操る応用技。


「う、うおおおっ!?」


 自分の式祈神で作り出した岩を逆に利用された京は、驚きながらももう一つの岩の掌を使い自分に迫り来る無数の炎に包まれた岩を叩き落とす。


「へぇ? 中々やるじゃないか。やっぱり決闘を受けたのは正解だったな」


「……! お、お前っ!」


 阿蓮は攻撃を防いだ京を見て、この決闘が観戦している爆竜の女性達の良い経験となると喜び、逆に京は怒りと屈辱に表情を歪めた。

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