この「衣」は少し違う(3)

「あの……ご主人様?」


 阿蓮が式着神アーマーユニットの周りに群がっている爆竜の女性達を眺めていると、射ノ一が何かを期待するような目をして阿蓮に話しかけてきた。


「どうした?」


「いえ……その……」


 射ノ一は阿蓮に見られると言葉を濁して視線を逸らし、それから自分の主人と式着神を交互に何度も見る。阿蓮はその様子を見て射ノ一が何を言いたいのかを察して彼女に声をかける。


「式着神に乗ってみたいのか?」


「っ! はい!」


 阿蓮の言葉に射ノ一は瞳を輝かせて元気良く返事をして、阿蓮は自分の予想が当たっていたことに内心で苦笑する。先程の自分と式着神を交互に見る彼女の視線は、憧れた乗り物を操縦してみたいという子供みたいで、だから気持ちを理解できたのだ。


 式着神は陰陽師専用に開発された兵器だが、式姫神サポートユニットも乗り込んで操縦することができる。というよりも、式姫神が人間の女性に近い姿をしている理由の一つには、式着神に乗って悪霊体デモナスと戦うという理由があるのだった。


 阿蓮は射ノ一を連れて他の爆竜の女性達を掻き分け自分の式着神の前に行くと、式着神の腰の辺りにある操作盤を操作する。すると式着神の胸部の装甲が展開して操縦席が現れた。


「式着神の操縦はそんなに難しくない。座席に座って式着神を自分の身体の一部のように考えろ。そうしたら後は操縦システムが勝手に操縦用の式祈神スキルを起動させてくれる。……でも君、操縦席に座れるのか?」


 射ノ一に式着神の操縦方法を説明した阿蓮は、式着神の操縦席を見る。式着神の操縦席は阿蓮……普通の人間が座ることを前提とした形状をしているのだが、射ノ一の腰には普通の人間には無い恐竜のような尻尾が生えていた。


「はい。多分大丈夫だと思います。……うんしょ」


「……!?」


「ふふっ♩」


 射ノ一は阿蓮にそう答えると尻尾を上に立てて式着神に乗り込む。それによって普段は尻尾に隠れていた裸の尻が丸出しになるのだが、彼女はそれを気にするどころかむしろ阿蓮に見せつけるかのように尻を小さく左右に振ってから操縦席に座る。


 射ノ一が操縦席に座ると展開されていた装甲が閉まり、それからしばらくすると式着神の頭部にあるカメラアイに光が灯り、外部音声装置から射ノ一の声が聞こえてきた。


『これは……凄いですね! 初めて乗ったのにまるで自分の身体のようです。それに自分の式祈神以外の式祈神も使えるのが分かります』


 式着神の中にいる射ノ一は興奮した声で言うと、そのまま「軽く」式着神を動かして内蔵されている式器神ウェポンユニットを試し出して、それを見て阿蓮が頷く。


「うん。どうやら式着神を使うのは問題なさそうだな。……ん?」


 阿蓮が射ノ一が動かす式着神を見て満足していると、いつの間にか他の爆竜の女性達が彼の周りに群がっていて何かを期待するような目を向けていた。


「どうした、お前達?」


「ご主人様、射ノ一だけズルいです」


「次は私を式着神に乗せてください」


「お願いします。ご主人様ぁ」


 爆竜の女性達は甘えるような声を出して阿蓮に近づくと、自らの乳房や尻肉を彼の体に押し付けるのであった。




「ご主人様。私の操縦は見て……くれませんでしたね」


 一通り式着神を動かした後、式着神から出てきた射ノ一は少しだけ拗ねた表情となって言う。彼女の視線の先には衣服が乱れた阿蓮と、彼の身体にくっついて幸せそうな笑顔を浮かべている爆竜の女女性達の姿があった。


「あー……。すまなかったな。でもこれだったら『アレ』を用意した甲斐があったな」


 他の爆竜の女性達に目を奪われて式着神を操縦する射ノ一を見ていなかった阿蓮が謝罪をしてからそう呟くと、彼の言葉を聞いた射ノ一が首を傾げた。


「アレ? アレとは何ですか?」


「戦事略決に行った時に作ってもらった兵器だよ。…… 急急如律令物質転送


 阿蓮が式祈神を使うと、星面金剛の倉庫からさっきまで射ノ一が乗っていた阿蓮の式着神とは別の式着神が転送された。


 新しく転送された式着神は阿蓮の式着神によく似ていたが、阿蓮の式着神よりも若干大きくて外見もいくらか女性的であった。


「お前達、爆竜の一族用の式着神だ。操縦席も尻尾のある爆竜の一族に合う特注品で、これを何とか十体用意した。これからの任務で必要になったらこれに乗ってもらう」


『『ーーーーーーーーーー!』』


 自分達のための式着神を用意してもらったと聞いて、射ノ一を初めとする爆竜の女性達は歓喜の声を上げた。そしてそれを見て阿蓮は小さく笑うと心の中で呟くのだった。


(ここまで喜んでもらえるなんて、用意して本当によかった。……でもその代わり、俺の所持金もほとんど無くなったな。これから本格的に稼がないとな)

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