十年ぶりの共闘(7)
辺り一面火の海。火の海の中を身体を焼き焦がしながら進む、悪霊体に取り憑かれた数十人の宇宙海賊の死体。そして腕を振るうだけで容易く宇宙海賊の死体を爆破し、斬り裂いて、死体の血肉と内臓を周囲に撒き散らす二人の陰陽師。
その光景は地獄としか言いようがなく、爆竜の女性の一人が地獄と化した宇宙港と、そこで狂ったように戦っている阿蓮と荒命を見て呟く。
「凄い……。これが陰陽師の戦い……」
もしここに阿蓮と荒命以外の陰陽師がいれば、その陰陽師は今の爆竜の女性の呟きを全力で否定しただろう。あんな周囲の被害どころか同士討ちの危険すら考えていない戦いができるのは、阿蓮と荒命、五大魔狂の陰陽師ぐらいしかいない。
だがここにはそれを指摘する者はおらず、爆竜の女性達は今も戦っている阿蓮を見ながら話し合う。
「私達……全員、アリュウに帰ったら鍛え直さないといけないわね」
「ええ、今のままではご主人様の足手まといにしかなりませんからね」
「それに、今頃アリュウでは皆、『次の試合』に備えて鍛えているでしょうし」
爆竜の一族は十年前に阿蓮が作った
そして彼女達、十人の爆竜の女性達は千二百人以上いる爆竜の一族による勝ち抜き戦を勝利して阿蓮と同行することを許された精鋭であるが、主人との同行を許されたのは今回だけ。次の任務ではまた勝ち抜き戦で同行する爆竜の一族を選ぶことが決まっており、前の勝ち抜き戦で負けた爆竜の一族は、アリュウで次こそ勝利するべく今も特訓をしている。
ちなみに今回の任務が終わり、アリュウに戻ってきた十人の爆竜の女性達から阿蓮の戦いぶりを聞いた爆竜の一族は、更に特訓に力を入れることになる。そしてその数年後、爆竜の一族は主人である阿蓮、五大魔狂の
「ふむ……。こんな所か?」
「いいや。まだだ」
悪霊体に憑依した宇宙海賊の死体を全て破壊し尽くした荒命が周囲を見回しながら言うと、阿蓮が宇宙海賊が乗っていた宇宙船を見ながら彼の言葉を否定をする。
「阿蓮? 一体どうしたのだ? ……む?」
荒命が阿蓮の言葉を聞いて彼が見ている宇宙船へと視線を向けると、乗組員である宇宙海賊が全ていなくなっているはずの宇宙船が一人でに動き出したのだ。
「これは……宇宙船も悪霊体に取り憑かれていたのか?」
「多分な」
軽く驚いた顔となって言う荒命に適当に答える阿蓮だったが、彼はこの状況を予想していた。
まるで今の戦闘を予知するかのような、宇宙居住地に悪霊体が取り憑いた宇宙海賊が攻め込んでくる夢。阿蓮が見たその夢では、宇宙海賊の死体死体だけでなく宇宙船まで悪霊体に取り憑かれていて、最後には船内に隠し持っていた大砲で宇宙居住地を攻撃していたのだ。
数十人の宇宙海賊の死体との戦いの直後に、今度は悪霊体に取り憑かれた海賊船との戦闘。普通の陰陽師であれば、ここで一度後退するか増援を要請することを考えるだろう。
だが、ここにいる阿蓮と荒命は、五大魔狂の二人は「普通の陰陽師」ではなかった。
「ほう、これは面白い。たかが数十の死体人形だけでは物足りなかったところだ。最後は派手にいくとするか」
「そうだな。荒命、久しぶりに『アレ』をやるぞ」
阿蓮が荒命に言うと、悪霊体に取り憑かれた宇宙船の周囲に無数の透明な泡が出現する。
「ああ、分かった!」
宇宙船の周囲に阿蓮が式祈神で作り出した泡が出現したのを確認すると、荒命は手に持っていた刃の鞭を宇宙船に向けて放り投げる。すると刃の鞭は高速で回転して宇宙船を斬り刻もうとする。
式祈神「刀一」。応用技の一つ「
荒命の操られ空中で高速回転をする刃の鞭は、刃が宇宙船に届く前に阿蓮の作り出した泡に次々と触れて破壊していき、やがて刃が宇宙船の装甲を斬りつけると次の瞬間、斬った箇所が爆発した。
土金属性連携技「
泡牢の泡を切り裂いて焼泥の油を刀身に取り込んだ刀一の剣で相手を斬りつけ、斬った箇所を爆発させる、阿蓮の式祈神と荒命の式祈神による連携技。
高速の斬撃とそれに続く爆発。それを一秒間に何百何千と繰り返されたら、いかに違法改造をされて装甲を強化された宇宙海賊の宇宙船と言えども耐えられるはずがない。宇宙港どころか宇宙居住地全体に激しい轟音と振動が一分程響き渡った後、宇宙船は何も出来ないうちに取り憑いていた悪霊体ごと跡形もなく破壊され尽くされていた。
こうして宇宙居住地を襲った悪霊体は全滅し、宇宙港には小さくない被害は出たが、それは悪霊体に襲われた場合の被害としては少ないものであった。
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