十年ぶりの共闘(4)

 それは突然の出来事だった。


 何処からか民間のものだと思われる所属不明の宇宙船が数隻現れると、その数隻の宇宙船は猛烈な速度で宇宙居住地に突撃をしてきたのだ。


 宇宙居住地の人々は数隻の宇宙船の行動に驚きながらも停止するように何度も呼びかけたが、宇宙船はそれを無視して止まろうとはしなかった。これに対して宇宙居住地の人々はやむを得ず防衛兵器で宇宙船を迎撃しようとするが、宇宙船は民間のものとは思えない性能で防衛兵器の攻撃をものともせず、宇宙居住地の宇宙港に激突した。


 宇宙船が激突したのは宇宙港で人が少ない区画で、宇宙港の職員達が急いで被害状況を確認すると、不幸中の幸いと言うべきか今のところ死者は出ていないようであった。


「クソッ! 捨て身で特攻とか正気か!? あいつらは一体何なんだ!」


 宇宙港の職員の一人が宇宙居住地に突撃してきた数隻の宇宙船に向かって悪態を吐くと、別の職員が考える表情となって口を開く。


「……もしかしたら、あいつらは宇宙海賊かもしれない」


「宇宙海賊? だとしても………えっ?」


 確かに外見は民間船を装っているが実際は違法改造をされている海賊船ならば防衛兵器の攻撃をものともしなかったのも納得できるが、それでも宇宙海賊がこんな何もない宇宙居住地に自殺同然の突撃をする理由が見当たらなかった。そのことについて宇宙港の職員が言おうとしたその時、宇宙船から数十人の武装した人間が姿を出てきた。


「っ!? アイツら、やっぱり宇宙海賊……いや、待て。あれは……?」


 宇宙港の職員は宇宙船から出てきた人間が持つ武器を見て宇宙海賊かと思ったが、すぐになんだか彼らの様子がおかしいことに気づく。宇宙船から出てきた数十人の武装した人間達は、全身に傷を負っており、中には首があらぬ方向に曲がっていたり頭蓋骨が割れて中身を撒き散らしながら進む者もいた。


 致命傷どころか明らかに死んでいるのにも関わらず武器を持って動く数十人もの死体。その姿は見る者に生理的嫌悪感を与えるものであったが、宇宙港の職員達はそれ以上の恐怖を覚えた。


「あ、あれは……悪霊体デモナス!?」


 死体がひとりでに動く理由は悪霊体に取り憑かれた以外に考えられない。恐らく悪霊体はまず民間船を装った海賊船に取り憑いて船員の海賊達を殺し、更にその海賊達の死体にも取り憑いたのだろう。


 そこまで考えたところで宇宙港の職員は血相を変えて周囲に指示を飛ばす。


「急いで宇宙居住地全域に緊急避難警報を出せ! 陰陽師への救援要請もだ!」


 精神生命体である悪霊体は、どんな探知機でも接近を感知することができず、何かに取り憑き周りに被害を出すことで初めて、その出現が確認される。


 悪霊体に襲われた人々は近くの宙域にいる陰陽師に救援を求めるしかないのだが、当然ながらその間にも悪霊体による被害は広がり、神聖ヤマト皇国が陰陽師の数を増やし続ける理由は、神出鬼没の悪霊体の被害に迅速に対応するためでもあるのだ。そしてこの場合、悪霊体による被害を少なくするために人々ができることは、現場の近くに「偶然」陰陽師が居合わせてくれることを祈るだけであった。


「よし。ここは危険だ。俺達も早く避難を………っ!?」


 宇宙居住地への避難警報と陰陽師への救援要請を出した宇宙港の職員達が自分達も避難しようとした時、宇宙港の方から爆音が聞こえてきた。


 宇宙港の職員達は最初、宇宙海賊の死体に取り憑いた悪霊体の仕業かと思ったが、宇宙港の方を見てみると、悪霊体が取り憑いた数十人の宇宙海賊の死体の前に二人の男が立っていた。


 二人の男は黒い軍服に黒い軍帽、そして五芒星の刺繍がされている白い外套マントという同じ格好をしており、その格好は神聖ヤマト皇国の人間ならば誰でも知っているものであった。


「陰陽師……!? ここにいたのか?」


「た、助かった……!」


 宇宙港の職員達は二人の男が着ている服、陰陽師の制服を見て安堵の表情を浮かべる。


 しかしこの二人の陰陽師が何者であるか、悪霊体以上に周りへの被害を出して恐れられてきた「五大魔狂」の二人であると知った時、宇宙港の職員達は今と同じ台詞を言えるのだろうか? それは不明である。

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