方針変更(3)

「お前達も大変だったんだな……。お前達もいつまでも土下座していないでその辺に座れよ。皆、コイツらにお茶でもやってくれ」


 阿蓮はこれまで散々荒命に叩きのめされてきた三人の陰陽師に声をかけると、爆竜の女性達にお茶を出すように頼んだ。


「うう……! ありがとうございます、射国の兄貴……!」


「先生のシゴキは本当にキツくて、一体何度死にかけて三途の川で死んだお祖父ちゃんお祖母ちゃんと話をしたことか……!」


「苦節三年……! ようやくあの地獄のシゴキから解放されて、こうして労ってもらえる日がくるとは……!」


「お前達な……」


 ようやく土下座から解放されて爆竜の女性達からお茶を受け取った三人の陰陽師は涙を流しながら礼を言い、荒命はそんな三人の陰陽師を横目で見てから阿蓮に視線を向ける。


「とにかく拙者の任務はこれで終わりだ。阿蓮、お前も惑星を見つけたからには任務が終わったのだろう? これからどうする気だ?」


「どうするも何も、昔のように自分で自分に合った任務をするさ。……ただ、これからは金が必要だから悪霊体デモナス退治以外にも割りの良い任務があったら受けるつもりだ」


「何?」


 阿蓮に質問した荒命は、彼の返事を聞いて意外そうな顔をする。


 陰陽師は基本、陰陽寮が出す数多くの任務の中から自分に合ったものを選び、任務を達成することで陰陽寮から褒賞金を得ている。そして危険な任務であれば褒賞金は高額で、悪霊体退治に関する任務はどれもが陰陽寮が出す任務の中でも褒賞金が高額である。


 しかし阿蓮や荒命、そして他の五大魔狂の三人も、今まで褒賞金など気にしたことなど一度もなかった。


 ただ自分達の力を高めることだけを目的としていて、それ以外のことには興味を示さない。だからこれまで周りへの被害や賠償金などの問題も気にすることなく、全力で悪霊体を相手に式祈神スキルを使ってきた。


 それなのに今になって急に褒賞金のことを考え始めた阿蓮の発言は荒命にとって意外だったのだ。


「いきなりどうしたんだ? お前が金に興味を持つとは珍しいな」


「アリュウ……任務で見つけた惑星、ここにいる爆竜の女性達の故郷を開発する資金が必要なんだよ。いくら最初から人が住める環境と言っても何にもない星だからな。開発には金がいくらあっても足りない。……なあ、荒命? 死ぬ気で働いたら自分好みで、向こうも自分に好意を持ってくれている千二百人以上の巨乳美女が、豊かな暮らしになって喜んでくれるとしたら、お前はどうする?」


『『……………』』


 荒命に向けて言った阿蓮の言葉を聞いて、自分のために動いてくれることを嬉しく思った爆竜の女性達が阿蓮の側に集まり、それを見た荒命は納得したように頷く。


「なるほどな……。それは確かに拙者も同じ立場なら死ぬ気で働くしかないな。……しかし『あの』土属性の爆弾魔マッド・ボマーが、自分以外の全てを吹き飛ばす大災害のような、あるいは大規模破壊兵器のような男がそのようなことを言うとはな」


「黙れ。お前には言われたくないんだよ。お望み通り吹き飛ばしてやろうか?」


 阿蓮は本当に自分の式祈神で吹き飛ばしてやろうかと考えながら荒命を睨みつけるが、荒命はそれを気にすることなく何かを考えるような顔で呟く。


「しかしそれなら拙者だけ昔のようにただ悪霊体を退治するのでは芸がないな。……ふむ。せっかくだから式祈神を使った剣術道場でも開いて、これからも陰陽師の弟子を育ててみるか?」


『『………!?』』


 どうやら素行の悪い百人の陰陽師を鍛え直すという任務を、それなりに気に入っていたらしい荒命が言うと、それを聞いた三人の陰陽師が顔を青くして震え上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る