金属性の切り裂き魔(3)

「それでは……参る!」


「チッ!」


 長髪の陰陽師が右手の斧を振るうと阿蓮は小さく舌打ちをして後ろへと飛んだ。するとその直後、長髪の陰陽師の斧が先程まで阿蓮が立っていた地面を轟音と共に叩き割る。


「流石にこれぐらいは避けれるか! だがまだまだ!」


 自分の初撃を避けられても長髪の陰陽師はむしろ楽しそうに笑うと、地面にめり込んだ斧を振り上げてもう一度振り下ろし、振り下ろしの途中から突きと薙ぎの連続攻撃を阿蓮に仕掛ける。そして阿蓮がこれらの攻撃も全て避けてみせると、長髪の陰陽師は更に動きを速くして攻撃を繰り出す。


 長髪の陰陽師は斧の刃だけでなく鉄球や柄の部分も攻撃に使い、全身のバネを使って体を回転させながら斧を振るう姿は小さな台風のようであった。そして突然すぎる戦闘を思わず呆然と見ていた爆竜の女性の一人がある事に気づく。


「……ねぇ? あの斧、形が変わっていない?」


 爆竜の女性の一人が呟きを聞いて他の爆竜の女性達も長髪の陰陽師が振るう斧を見てみると、確かに斧の外見がいつの間にか変わっていた。最初は柄が長い鉄球付きの斧という外見だったのだが、今では柄の部分に何十本もの刃が生えて、鉄球に取り付けられていた斧の刃も巨大化した上に三つに増えており、もはや斧というよりは刃物の塊と言うべき外見であった。


「ご主人様!」


「来るな!」


 刃物の塊と化した斧はその重量も増しているはずなのに、斧を振るう長髪の陰陽師の動きは鈍くなるどころかますます速く、そして複雑になっていく。それを見て爆竜の女性達は阿蓮に加勢しようとするのだが、阿蓮は長髪の陰陽師の攻撃を避けながら彼女達を止めた。


「お前達じゃコイツには勝てない! そこで大人しくしていろ!」


「………!?」


 自分達の主人にはっきりと足手纏いだと言われた爆竜の女性達は悔しさと悲しさが混じった表情を浮かべ、長髪の陰陽師はそんな彼女達を見て口を開く。


「ほぉ……。先程から気にはなっていたが、美しい式姫神サポートユニットではないか。あんな美女達が見ているのだ。お前も負けられないのではない……か?」


 長髪の陰陽師は阿蓮に向かって挑発するような台詞を言い更に攻撃を繰り出そうとするのだが、突然その動きを止めてしまう。そして阿蓮は動きを止めた長髪の陰陽師を見て呆れたような口ぶりで話す。


「確かに負けるのは嫌だな。だからこの辺りでやめさせてもらうぞ」


 そう言って阿蓮が長髪の陰陽師の周囲に視線を向けると、そこにはほとんど色が無い透明の泡が無数に浮かんでいて長髪の陰陽師を取り囲んでいた。


「これは、『泡牢』か……」


 自分の周囲に浮かぶ泡を見て長髪の陰陽師が呟く。


 阿蓮の式祈神スキル「焼泥」。その応用技の一つ「泡牢」。


 使用者の意思に従って形を変える焼泥を、透明な泡の形にして敵の周囲に出現させることで、敵を爆破するだけでなく拘束したりもできる応用技である。


「一体いつこれを?」


「ついさっき。お前が爆竜の女性達に気を取られた隙にな」


「なるほどな」


 長髪の陰陽師の言葉に阿蓮が答えると、長髪の陰陽師の右手にあった斧が一瞬で消えてなくなり、長髪の陰陽師は両手を上げて降参の意思を示した。


「ふむ……。十年の歳月で腕は鈍っていないようだな?」


「お前な……。そんなことを確かめるために喧嘩を売ってきたのかよ?」


 両手を上げたまま楽しそうな話しかけてくる長髪の陰陽師に、阿蓮は呆れ果てたという顔となって返事をする。そのやり取りは明らかに以前からの知り合い同士のそれであり、爆竜の女性の一人が阿蓮に質問する。


「あの……ご主人様? こちらの方とはお知り合いなのですか?」


「そうだよ。コイツとは陰陽師になったばかりの頃、訓練生時代からの付き合いだ」


 阿蓮の言葉に長髪の陰陽師は頷くと爆竜の女性達に向けて自己紹介をする。


「初めまして、美しいお嬢さん方。拙者は布宮ぬのみや荒命こうめい。阿蓮とは共に何度も悪霊体デモナスと戦った仲で、周りからは『金属性の切り裂き魔ブレード・リッパー』と呼ばれている」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る