金属性の切り裂き魔(2)

「お前達、陰陽師になって何年目だ?」


「は、はい。五年前に陰陽師になりました」


(やっぱりな……)


 三人の陰陽師に阿蓮が聞くと、地面に正座をしている三人の陰陽師の一人が答え、それを聞いて彼と周囲にいる見学人の陰陽師達が納得の表情となる。


 阿蓮が陰陽寮から未確認宙域の調査を命じられ、そこで発見した惑星で未知のウィルスに感染して、治療のためにコールドスリープを行ったのが十年前。


 この三人の陰陽師も、五大魔狂の名前や噂くらいは知っているはずだが、実際に活動している姿は見たことがなかった。そのせいか目の前にいる阿蓮が五大魔狂の一人、絶対に喧嘩を売ってはならない相手だと気づかなかったのである。


 十年前までは今までしでかしたこともあり、阿蓮の顔を見れば厄介者か化け物と出会ったような顔をする陰陽師ばかりであった。だから自分のことを知らないという陰陽師は新鮮であり、毒気を抜かれた阿蓮はこれ以上怒る気を無くした。


「……まあ、いいか。お前達、もう帰っていい……」


「ほう。中々面白いことになっているな?」


 阿蓮が三人の陰陽師を適当に追い返そうとした時、少し離れた場所から彼らとは違う男の声が聞こえてきて、そちらを見ると一人の男が面白そうな笑みを浮かべて阿蓮達に視線を向けていた。


 その男は阿蓮達と同じ陰陽師の制服を着ているが、腰まで伸ばした艶のある長髪に綺麗に整った顔立ちと、とても悪霊体デモナスと戦う陰陽師には見えなかった。


 三人の陰陽師は、いきなり現れた長髪の陰陽師を見て驚いた顔となり立ち上がる。


『『せ、先生っ!?』』


「先生?」


 阿蓮はついさっき三人の陰陽師が「地獄の特訓」と、誰かの教えを受けたようなことを言っていたのを思い出し、長髪の陰陽師を見て怪訝な表情となる。


「…………………………お前が、先生?」


「ああ、そうだぞ? どうやら拙者の生徒達はお前に負けてしまったようだな。まったく情けない。これは一から修行をやり直した方がいいかもしれないな?」


『『………!?』』


 長髪の陰陽師の言葉に三人の陰陽師は顔を青くして震え上がるのだが、長髪の陰陽師はそんな三人の陰陽師を無視して阿蓮の方に視線を向けていた。


「だが、それより先にお前だ。拙者の可愛い生徒と遊んでくれたのだ。……礼はしないとな」


 そう言うと長髪の陰陽師は右腕を横に振るい、その次の瞬間、長髪の陰陽師の右手の中に「それ」は現れた。


 まず最初に目に入ったのが、長髪の陰陽師と背丈の倍はありそうな、金属製と思われる黒い棒。


 次に目に入ったのが、黒い棒の先端にある無数の鋭い棘が生えた巨大な鉄球。


 そして最後に目に入ったのが、鉄球に取り付けられている断頭台の刃のような、肉厚で幅広い斧。


 長髪の陰陽師の右手の中に現れた斧は、どう考えても人間の腕力では持つことも不可能な重量を持っているように見えた。しかし長髪の陰陽師は超重量の斧を片手で軽々と振るい、阿蓮に向けて獰猛な笑みを向ける。


「それでは……拙者とも遊んでもらおうか?」


「…………………………マジかよ?」


 超重量の斧を手に持って戦闘準備を完了させた長髪の陰陽師の言葉に、阿蓮は心底面倒そうな顔となって呟いた。

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