重爆のスターゲイザー(5)

「……っ!? ここは、何処ですか?」


「さっきも言っただろ。星面金剛の艦内、操舵室だよ」


 瞬間移動の式祈神スキルによって一瞬で星面金剛の操舵室へ移動した事に爆竜の女性が戸惑った表情で呟くと、阿蓮は何でもないように答えて操舵室の中央にある操縦席に座る。


「お前と一緒に戦うのも久しぶりになるのかな? さあ、十年ぶりの戦いだ。星面金剛」


「ご主人様! あれを!」


 阿蓮が懐かしむように星面金剛に話しかけていると、爆竜の女性が正面のモニターを指差して大きな声を出す。正面のモニターの中では、星面金剛に気を取られている間に阿蓮達を見失った悪霊体デモナスが、別の場所へと移動しようとしていた。


「あっちには私達の村の一つが……!」


「分かっている。行かせないって」


 爆竜の女性の方を見ずに答えた阿蓮は意識を集中させて式祈神を発動させた。すると次の瞬間、悪霊体の脚元に黒い水溜り、焼泥の油が現れて先程と同じように悪霊体の脚に絡みつくのだが……。


『………』


「駄目です! まだ動いています!」


 悲鳴のような声で叫ぶ爆竜の女性の言う通り、今度の悪霊体は脚に焼土の油が絡みついて動きは鈍くなったが、それでもまだ先に進もうとしていた。しかし阿蓮は取り乱すことなく、冷静に悪霊体を観察しながら呟く。


「やっぱりあのサイズだと動きを完全に止めるのは難しいか……。だが、まあいい。次で終わらせる。……行くぞ、星面金剛」


『………!』


 式艤神スターゲイザーの操作方法は、人型の戦闘兼航行ユニットと意識を同調させて、もう一つの肉体として操るというもの。そして阿蓮と意識を同調した星面金剛は両腕を持ち上げて、その両手の指先を悪霊体へと向ける。


(まずは焼泥。油は両腕の内部にある貯蔵器に発現。続けて式器神ウェポンユニット『水弾』起動)


 阿蓮は自分の式祈神を使いながら、星面金剛に内蔵されている式器神の一つを起動させる。


 式艤神の武装は式器神のみで、ミサイルやレーザー等の通常の兵器は一切装備していない。これは通常の兵器では悪霊体に通用しない上に、逆に悪霊体に取り憑かれる危険性があるからで、陰陽師は自らの式祈神と式器神を組み合わせて悪霊体と戦うのである。


 そして阿蓮が発現させた式祈神の焼泥は粘性を持つ半固体の油を創造して操る式祈神で、式器神の水弾は対象の液体を固体として弾丸のように飛ばすという式器神。この二つを組み合わせた攻撃技を繰り出そうとしていた。


「くらえ。『焼指弾』」


 阿蓮が呟いた次の瞬間、星面金剛の両手、多目的五連装砲塔から水弾によって固体にされた焼泥の油の弾丸が無数に発射される。


『………!? ……………!!』


 焼泥の弾丸は悪霊体の借り物の巨体ごと精神だけの本体をも貫くと内部で爆発し、それによって悪霊体が声こそは出ていないが悲鳴を上げるよう仕草をする。しかし阿蓮は攻撃の手を緩めることなく、更に焼泥の弾丸を悪霊体へ向けて降り注がせる。


 焼泥の弾丸が悪霊体の巨体に当たる度に起こる爆発は、やがて脚元に絡みついていた油にも引火して、悪霊体を中心に大きな炎を生み出した。焼泥の油が引火した炎は容易に消えることはなく、むしろ弾丸となった焼泥の爆発も加わって勢いが増していく一方であった。


 着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。着弾。爆発。燃焼。


「………!」


 上からは爆発する無数の弾丸の雨に貫かれ、下からは消えることのない炎に焼かれる悪霊体の姿は、まるで地獄の刑罰を受ける死者のようで、それをモニターから見ていた爆竜の女性は自分の背筋が寒くなるのを感じた。


 阿蓮はその戦いの激しさから「五大魔狂」や「土属性の爆弾魔マッド・ボマー」と呼ばれて、周りから頼られると同時に恐れられている陰陽師であった。当然そんな彼の専用機である星面金剛も恐怖の対象とされており、阿蓮と共に悪霊体と戦う星面金剛の姿を見た者達は、星面金剛のことをこう呼んだ。


 悪霊体と戦う戦場に現れては無数の爆弾を降らせ、悪霊体だけでなく周りまでまとめて爆砕する漆黒の式艤神。「重爆のスターゲイザー」と。


 阿蓮が焼指弾を放った時間は十秒程度。しかし爆竜の女性は、何十分も地獄の光景を見せられた気分であった。


 十秒間の焼指弾の連射によって、あの山のように巨大だった悪霊体は跡形も無く吹き飛び、本体である精神体も完全に滅んだようであった。後に残ったのは今も炎が燃えていて大量の黒い煙が立ち昇っている大地だけで、そこに最初にあった岩山は悪霊体もろとも吹き飛ばされていた。


 ご先祖様が眠る神聖な場所としていた岩山を破壊された、という怒りは爆竜の女性にはなかった。あるのは岩山の破壊を可能とした阿蓮の力に対する驚きと、恐ろしくも頼もしいという気持ちだけで、恐らくは村から今の光景を見ていた他の爆竜の一族も同じ気持ちだろう。


「まあ、これぐらいでいいかな? まだ全然やり足りないが、せっかく手に入れた自分の星を壊したら元も子もないし、何よりこれ以上は爆竜の村に被害が出るからな」


「……………!?」


 モニターを見ながら呟く阿蓮の言葉に、爆竜の女性は限界まで目を見開いて彼を見る。今の地獄を生み出した攻撃ですら阿蓮は全く本気ではなかったという事実に、爆竜の女性は生涯彼に逆らうことなく忠誠を誓うことを心の中で決めるのだった。

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