重爆のスターゲイザー(2)

「ご主人様……。ご先祖様と戦うのですか?」


「戦う。あれは悪霊体デモナスだ。そして陰陽師は悪霊体と戦うためにいる」


 阿蓮は岩と骨の怪物、悪霊体から目を離さずに爆竜の女性の言葉に即答すると、昨日と二日前に見た悪夢のことを思い出す。


 阿蓮の悪夢に出てくる怪物とこの悪霊体の姿は全く同じで、夢の中で爆竜の一族は一切の抵抗をせずに怪物に殺されていた。だがこれまでの爆竜の女性との会話から、夢の中の彼女達が無抵抗で殺された理由を理解した。


(確かに自分達が崇拝しているご先祖様を相手に戦うことはできないよな。というか、何でさっきから夢と同じ物や展開が次々と出てくるんだ? いや、それは後で考えるとして、ここはまず彼女を逃すのが先か)


「おい。早くここから逃げ……」


「ご主人様! 私も加勢します!」


 阿蓮が悪霊体と戦う前に爆竜の女性をここから逃がそうとしたその時、爆竜の女性は自分も戦うと言い出した。これを意外に思った彼が視線を悪霊体から彼女に移すと、爆竜の女性は迷いの無い覚悟を決めた表情を浮かべていた。


「……大丈夫か? 戦えるのか?」


「はい! ご主人様はあれを悪霊体と言いました! そして私達、爆竜の一族はご主人様と共に悪霊体と戦うために生まれました! それが全てです!」


 てっきり夢と同様に最後まで戦えないと思って聞いた阿蓮だったが、爆竜の女性は力強く断言をして、これには彼の方が驚いた。


「そ、そうか……。だけど……」


「っ!? ご主人様!」


 阿蓮が何かを言おうとした時、爆竜の女性が血相を変えて叫ぶ。彼女の見ている先では、悪霊体が阿蓮に向かって突撃をしようとしていた。しかし……。


「ああ、大丈夫だ」


「………!?」


 阿蓮がそう言うのと同時に、悪霊体は足が地面に縫い付けられたかのように動きを止めた。阿蓮は動きが止まった悪霊体を馬鹿にするような目で見る。


お前ら悪霊体は本当に単純だよな。俺が敵を前に何の備えもしていないと思ったのか?」


 見れば悪霊体の足元には水溜まりができており、黒い泥のようなものが悪霊体の脚に絡みついて動きを止めていた。


「あれは……!? 式祈神スキルの焼泥ですか?」


 いつの間にか式祈神を発動させて悪霊体の足止めをする罠をはっていた阿蓮に、爆竜の女性が驚いて声を上げると、彼はそれに頷いて彼女の方を見る。


「そうだ。昨日、君達が焼泥を使えるのは見せてもらったけど、まだまだ威力も工夫も足りなかったし、何より練度が低い。まあ、これは一度も悪霊体と戦ったことがないから仕方がないけどな」


「ええっ!?」


 阿蓮が正直に、昨日爆竜の一族の焼泥を見た感想を言うと、爆竜の女性は強い衝撃をような表情となる。しかし彼はそれに構わず言葉を続ける。


「式祈神の初心者は無意識に自分の近くで式祈神を発現してしまう。だけど慣れれば自分が認識できる場所なら何処でも自由に式祈神を発現させて操ることができる。……こんな風にな」


「……………!!」


 阿蓮が悪霊体の動きを止めている黒い泥、焼泥に思念を送った瞬間、焼泥は悪霊体ごと爆発を起こして天にも届く火柱を生み出した。その火力は昨日爆竜の女性が見せた焼泥とは比べ物にならないくらい強力なものであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る