疑問が確信に変わる時(2)

 祭りがあった日の翌日。阿蓮は夢を見た。


 それは昨日見たのと同じ、岩山から現れた怪物によって爆竜の一族が殺されていくという悪夢。夢の内容は怪物が岩山から現れるタイミングから、爆竜の一族が怪物に向かって祈りを捧げたり懇願をしているところまで全て同じで、阿蓮は昨日と同じく下半身を潰された爆竜の女性が自分を殺した怪物を「ご先祖様」と呼んでから事切れたところで目を覚ました。


「……っ!? またあの夢? 一体何なんだよ?」


 目を覚ますと同時に勢いよく上半身を起こした阿蓮は、二日連続で見た悪夢に思わず愚痴をこぼす。


「……寒いな。あの夢がリアルすぎたせいで冷や汗が止まらな……いや、ちょっと待て?」


 寒さに身体を震わせた阿蓮は、これも悪夢のせいで冷や汗をかいたからだと思ったが、すぐにそれは違うことに気づく。確かに彼の全身には汗が浮んでいたが、それ以上に衣服を着ていないことが寒さを感じた原因であった。


「えっ!? は、裸ぁっ!? 何で俺、裸で寝ているんだ!?」


 阿蓮には裸になって寝る習慣はない。しかし朝起きたら裸であった事実に阿蓮が混乱していると、彼のすぐ側で何かが動く気配がした。


「う、ん……。ご主人様、お目覚めですか」


「あ……、な、何で君も裸なんだよ? ……………っ!?」


 動く気配は爆竜の女性の一人で、阿蓮がそちらを見ると彼女も例の前掛けを脱いだ正真正銘の全裸であった。思わず視線を逸らした彼は周囲の光景を目にして思わず言葉を失った。


 阿蓮が今いるのは昨日祭りが行われた村の広場で、彼の近くに微かにアルコールの香りがする器のような物が転がっていることから、祭りの最中に酒を飲んで眠ってしまったのだろう。しかし酒を飲んで眠っていたのは阿蓮だけではなく、祭りに参加していた爆竜の一族も地面に横になっていた。


 全員全裸で。


 見渡す限り巨乳の美女達が裸で眠っている、正に巨乳の大地。そのあまりにも衝撃的な光景に、驚きすぎて逆に冷静になった阿蓮が呟く。


「うわー、絶景だな……。でも何で俺は裸なんだ?」


 祭りの最中で爆竜の一族が作った酒を飲んだところまでは思い出せたが、やはり服を脱いだ記憶がない阿蓮が首を傾げていると、隣にいた爆竜の女性が話しかけてきた。


「ああ。ご主人様の服でしたら私達が脱がせました」


「いや、何をしているんだ!?」


 爆竜の女性の言葉に阿蓮は反射的に声を上げる。


「何で寝ている俺を脱がすんだよ!? ………! いや、それよりもまさか、俺と君達は……シたのか……!?」


 阿蓮はもしかしたら自分が酒に酔った勢いで爆竜の女性達と肌を重ねたのではと考えると、盛大に後悔した。


(うわあああっ! なんて勿体ないことをしたんだ、昨夜の俺!? いくら酒に酔ったといっても巨乳美女、それも一人じゃなくて複数とヤる時はしっかりと意識を持って記憶に残せよ! 確かに俺は爆竜の一族の主人で、これから何回でも彼女達とヤれる機会はあるよ! でも違うだろ!? 巨乳に触れている時間っていうのはその一秒一秒が黄金のように輝いている最高の一瞬なんだよ! それを酒に酔った程度で記憶に残さないなんて、男か俺は!?)


「いえ、昨夜はまだ肌を重ねてはいません。私を含めて全員、なんとか拝むだけで済ませました」


「アレ? ヤってないの? というか拝むって何?」


 爆竜の女性の言葉に阿蓮は心の中で安堵の息を吐いたが、続けて聞いた「拝む」という言葉に首を傾げる。だが爆竜の女性は彼の疑問に答えず、自分達の主人に近づきながら話しかける。


「しかしご主人様がお望みでしたら、今からでもご奉仕をしたいと思いますが……どうでしょう?」


 そう言う爆竜の女性は目を血走らせていて息も荒く、今にも涎を垂らさんばかりの様子であった。更にさっきまで広場で眠っていたはずの千二百人を超える爆竜の一族もいつの間に全員起きており、彼女達も血走った目で阿蓮を見ていた。


「……………!?」


 本来であれば大勢の巨乳美人に求められるのは嬉しいことのはずなのに、この時の阿蓮はまるで空腹の肉食獣の群れの中に迷い込んだ気分であった。

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