疑問が確信に変わる時(1)

 爆竜の一族が自分と同じ式祈神スキルが使えることを確認した阿蓮は、爆竜の一族の村の一つに案内される。


 そこでは千二百人を超える全ての爆竜の一族が集まっており、阿蓮の目覚めを祝う祭りが盛大に開かれた。祭りの舞台や出されている料理は、阿蓮から見れば村の建物同様に原始的なものであったが、それでも爆竜の一族が自分の目覚めを喜んでもてなそうとしてくれるのが分かった。


 阿蓮が案内された村は爆竜の一族が最初に作った村らしく、村の中央には石と木で作られた墓標のようなものがあり、祭りの主役である阿蓮の席はその墓標が正面に見える位置に設けられていた。今、墓標の前では数人の爆竜の女性達が踊りを踊っていて、踊りを見ながら隣に座る爆竜の女性から墓標が誰のものなのか聞いた阿蓮は、視線を爆竜の女性達の踊りから墓標へと移す。


「そうか……。あの墓の下に……」


「はい。『初代』様が眠っています」


 阿蓮の呟きに隣に座る爆竜の女性が頷く。


 爆竜の一族の初代。それはここにいる爆竜の一族全ての生みの親と言える存在。十年前、阿蓮がコールドスリープを行う直前に、式艤神スターゲイザーを守らせるためにただ一人だけ直接製造した式姫神サポートユニットであった。


 初代の爆竜はまずこの場所に自分が生活する拠点を作ると、それからは阿蓮の命令に従い式艤神スターゲイザーを守護をしながら日々の生活を送っていた。そして初代の爆竜は単為生殖によって新たな爆竜の女性を産み、その女性も新たな爆竜の女性を産むのを繰り返して、最初は初代の爆竜が一人暮らすだけだった拠点はどんどん大きくなって村となり、やがて爆竜の一族はここ以外にも村を作るまでに数を増やしていったのだった。


 初代の爆竜は阿蓮の期待以上の働きをしてくれた。唯一命令した式艤神の守りをしてくれただけでなく、ここまで多くの労働力となる子孫を遺してくれたのは、阿蓮も予想していなかった。


 だから阿蓮としては初代の爆竜に労いと感謝の言葉を言いたかったのだが、初代の爆竜はもういない。今から二年前、製造されて八年目で初代の爆竜は「寿命」を迎えてこの世を去ったからだ。


 装置によって製造される式姫神は、製造されるまで一年の期間を必要として寿命は永く生きたとしても十年くらいしかない。更に言えば感情とかも希薄でただ命令を実行する機械みたいな印象があり、それが理由で阿蓮は今まで式姫神を製造しようとはしなかった。


 ちなみに式姫神の単為生殖によって産み出した次世代の式姫神は製造された式姫神とは違い、一年くらいで幼児から成体となるが寿命は数十年と永く、しっかりとした感情と自身の意思を持っており、これも式姫神の単為生殖が特別視される理由である。


(せめて一言礼を言いたかったな。……本当にありがとう)


 目の前にある初代の爆竜の墓標に向けて黙祷を捧げた阿蓮は、遠くに見える岩山に気づいた。


「あの山は……?」


「あの山は私達の『ご先祖様』が眠っている場所ですね。初代様から聞いた話では、ご主人様はあそこから私達を作る遺伝子情報を手に入れたと聞きました」


 岩山を見て思わず呟いた阿蓮の言葉に隣に座る爆竜の女性が答え、それを聞いて阿蓮も思い出す。彼はこの惑星に降りて直接調査をしていた時にあの岩山へ行ったことがあり、そこで恐竜の化石を発見して、初代の爆竜を製造にその恐竜の化石の一部を使用したのだ。


 そのことを考えれば、爆竜の女性が岩山をご先祖様が眠る場所と呼んで神聖視する気持ちも理解できるが、阿蓮が岩山に注目したのは別の理由からだった。


(あの岩山……夢で見たのと全く同じだ)


 阿蓮が今日の朝に見た、岩山から謎の怪物が現れて爆竜の一族を殺していく悪夢。その怪物が現れる夢の中の岩山と、遠くに見える岩山は全く同じであったからだ。

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