土属性が地味とは限らない(5)

「ここならよろしいでしょうか? それで試すのは……あれが丁度いいですね」


 爆竜の一族の式祈神スキルを確認したいと言った阿蓮は、爆竜の女性達に式艤神スターゲイザーがある湖から少し離れた場所へ案内された。そして爆竜の女性の一人が周囲を見回して、自分の背丈の倍以上はある岩を見つけると阿蓮に話かける。


「それではご主人様。私達がご主人様からいただいた式祈神をご確認下さい」


 そう言うと爆竜の女性は岩の前まで進んで右腕を上げる。すると彼女の恐竜の手脚みたいな右腕が、黒い泥のようなものでおおわれた。


「あれは……」


「ハァッ!」


 阿蓮が爆竜の女性の右腕をおおった黒い泥のようなものを見て呟くのと同時に、爆竜の女性はその黒い泥のようなものでおおわれた右腕で目の前の岩を殴り、その次の瞬間……。


 ドゴォッ!


 岩を殴った爆竜の右拳から爆発が起こり、爆発の衝撃が岩を粉々する。それを見て阿蓮は納得したように呟く。


「なるほど……。確かにあれは俺の式祈神『焼泥しょうど』だな」


 爆竜の女性が今使ったのは、阿蓮が生体強化を受けて陰陽師となった時に式祈神で間違いなかった。


 式祈神「焼泥」。


 陰陽師の精神エネルギーから擬似的な物質を創造して操る「土」属性の式祈神の一つ。その効果は粘性を持つ半固体の油を創造して操るというもので、使用者の意思で自由の爆発させるだけでなく、爆発の威力や粘度も操作が可能。更に焼泥の爆発はただの爆弾のものではなく、ナパーム弾の爆発と同じで容易に消えない炎を撒き散らし、現に爆竜の女性が砕いた岩の破片は今も炎に包まれている。


 どんな物も破壊した上に焼く、泥のような油を創造する式祈神。それ故に「焼泥」。


 阿蓮が「土属性の爆弾魔マッド・ボマー」と呼ばれる由縁である。


 ついさっきの爆竜の女性は黒い泥のようなもの、焼泥の油を右腕に纏わせて、岩を殴った瞬間に爆発させたのだ。もちろんそんなことをすれば、爆発の余波や炎の熱が本人にも襲いかかってくるのだが、腕の鱗が防いでくれているのだろう。


(多分、拳だけじゃなくて蹴りや尻尾でも爆発を起こせるんだろうな。俺の式祈神の焼泥と恐竜のような強靭な手脚と尻尾を組み合わせた、拳や蹴りの一撃一撃がナパーム弾の爆発の接近戦が爆竜の一族の戦い方か)


 阿蓮が爆竜の女性の岩を爆砕した一撃を見て推測をしていると、当の岩を爆砕した爆竜の女性がどこか期待するような顔で彼に話しかけてきた。


「あの、ご主人様? 私の式祈神はどうでしたか?」


「ん? ……ああ、中々強力だと思うぞ」


「っ!? 本当ですか! ありがとうございます!」


『『……………!』』


 阿蓮の言葉に話しかけてきた爆竜の女性だけでなく、周囲にいる爆竜の一族全員が喜び出す。


 今、阿蓮が言ったことは紛れもない本心である。殴ったり蹴ったりする度に相手を爆破して上、体を燃やす爆竜の一族は接近戦ではこれ以上ない戦力だし、焼泥を上手く使えば直接戦う以外の援護も期待できる。しかし……。


(……あれが本気じゃなかったとしても、やっぱり威力と工夫が足りないかな?)


 しかし、神聖ヤマト皇国の陰陽師達が頼りにしながらも恐れる五大魔狂が一人、土属性の爆弾魔から見れば、少し物足りない印象らしい。

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