土属性が地味とは限らない(3)

 時を少しだけ先送りして阿蓮がコールドスリープから目覚めてから一ヶ月後。陰陽師を統括する機関、陰陽寮の本部では、外見は三十代だが実際は百年以上生きているそれなりに立場が高い陰陽師が、外見も実際も二十代の若い陰陽師の報告に驚いていた。


「射国阿蓮からの報告がきただと……!? 彼は確か、居住可能な惑星を発見したがウィルスに感染してコールドスリープをしていたはずだが?」


 陰陽寮に所属している陰陽師の数はそれこそ星の数程いる。しかし三十代の陰陽師は、阿蓮の名前を聞いてすぐに彼がどんな状況にいるのか言って、そのことに二十代の陰陽師は首を傾げた。


「あの……その射国阿蓮という人とは知り合いなのですか?」


「ん? ……ああ、そうか。君はまだ陰陽師になってから十年も経っていなかったな」


 三十代の陰陽師は、二十代の陰陽師の言葉に一瞬だけ怪訝な顔となるが、すぐに納得して頷く。


「十年以上昔から陰陽師をしている者で射国阿蓮の名前を知らない者はいないのだが……では『五大魔狂』は知っているかね? 射国阿蓮は五大魔狂の一人なのだが」


「っ! 五大魔狂なら知っています。同時期に陰陽師となった五人の集団で、陰陽師になってすぐに頭角を現して、数多くの悪霊体デモナスを退治してきたと聞きます。残念ながら会ったことはありませんでしたが、射国さんは五大魔狂の一人だったんですね!」


 現在でこそ陰陽師は様々な種類の仕事を引き受ける何でも屋のような立ち位置ではあるが、本来は悪霊体と戦い退治するための軍人である。大きな戦績を持つ者に憧れるのは軍人の性のようなもので、二十代の陰陽師は瞳を輝かせるのだが、それに対して三十代の陰陽師は微妙な表情を浮かべていた。


「五大魔狂と会ったことがない。……それは、そっちの方が幸せかもしれんな」


「え? どういうことですか?」


 二十代の陰陽師に聞かれて三十代の陰陽師は遠い目となって説明をする。


「確かに、五大魔狂は全員優秀な陰陽師だ。任務に忠実だし、目覚めた式祈神スキルは強力な戦闘向きの能力ばかり。そして自らの式祈神に慢心することなく、どうすれば式祈神をより効率良く強力に使えるか常に研究していた」


 陰陽師は生体強化を受けることで式祈神に目覚めるのだが、目覚める式祈神は「特例」を除いて一人一種類だけで、その効果も人によって異なる。例え戦闘に不向きな式祈神に目覚めても、式器神ウェポンユニットを使用すれば悪霊体と戦うことができるが、やはり一番効果を発揮するのは自身が目覚めた式祈神である。


 そんな理由から強力で戦闘向きの式祈神に目覚めた陰陽師は重宝されるのだが、その中には自分の式祈神の威力に慢心する者も少なくない。だから戦闘向きな式祈神に目覚めても慢心せず、自己の向上に余念がない五大魔狂は正に理想的な陰陽師だと二十代の陰陽師は思うのだが、三十代の陰陽師の表情を見るとどうもそうではないらしい。


「……一言で言えば五大魔狂は強すぎたのだ」


 三十代の陰陽師は、自分の顔を見て疑問を抱いている二十代の陰陽師に説明を続ける。


「君の言う通り、五大魔狂は陰陽師になるとすぐにその才能を開花させ、彼ら五人が揃うと並の陰陽師数十人以上の戦果を出した。……しかし彼らの式祈神は威力が強力すぎて悪霊体だけでなく、味方の陰陽師や周囲の街も必ず被害を受ける。悪霊体の群れと一人で戦っていた勇敢な陰陽師が、増援に来たのが五大魔狂と知った途端に戦意を喪失して退去しようとした話も一度や二度ではない」


 魔人かと思うほど強大な力を持つが、敵味方の区別もなく狂ったように戦う五人の陰陽師。


 故に「五大魔狂」。


「……………!?」


 今の話は初耳だったらしく二十代の陰陽師が絶句していると、三十代の陰陽師はようやく自分の気持ちを理解してもらえたと思いながら話す。


「五大魔狂は味方の被害は大きいが幸いにも死者は出しておらず、味方の被害以上の戦果を出すことから陰陽寮も強く罰することはなかった。だが今から十年前、五大魔狂はとある有力貴族の屋敷を悪霊体ごと跡形も無く吹き飛ばし、いよいよ陰陽寮は彼らの処遇を決めた。それは長期間拘束される任務を強制的に受けさせて戦場にから遠ざけることだった」


 陰陽師は基本、陰陽寮から提示される任務の中から自分の能力に合ったものを選んで受けていて、任務を強制されるという話はあまり聞くことがない。つまり陰陽寮が五大魔狂に強制した長期間の戦闘とは関係ない任務は、彼らへの「謹慎」というの意味であり、阿蓮に与えられた未確認宙域の調査もその一つであった。


「しかし射国阿蓮がコールドスリープから目覚めた以上、惑星の調査報告がくれば陰陽寮も彼の任務達成を認めるしかない。……五大魔狂が一人『土属性の爆弾魔マッド・ボマー』が復帰とは、頼もしいと同時に恐ろしいな」


 三十代の陰陽師は自身の胸の内にある複雑な気持ちをそのまま口にした。

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