土属性が地味とは限らない(2)
「とりあえず『十年ぶり』に仕事をするか」
悪夢のことは一度忘れることにした阿蓮は、自分のすべきことを再確認する。
阿蓮はこの惑星を調査してすぐに凶悪なウィルスに感染してしまった。助かるために彼は医療装置がウィルスの特効薬を開発している間、長期睡眠カプセルの中でコールドスリープを行っていたのだが、ウィルスの特効薬が開発されてコールドスリープから目覚めるまで十年の年月が経過したのである。
その事実を自身の
陰陽師の任務には今回の未確認宙域の調査みたいに、長期間外部と連絡が取れなくなる任務もあるので、十年間音沙汰無しというのも珍しいが全く無いわけでもないからだ。加えて言えば、神聖ヤマト皇国ではコールドスリープの技術だけでなく、遺伝子情報を改良して不老長寿となる技術が一般に普及しているので、神聖ヤマト皇国の人間にとって十年という時間は大して長い時間ではなかったりする。
爆竜の女性から話を聞いて自分の状況を理解した阿蓮は早速、自分が所属している陰陽師を統括している機関「陰陽寮」にコールドスリープから目覚めたという連絡を送ることにした。しかし通信環境が皆無な未確認宙域の惑星からなので、連絡が陰陽寮に届いて返事が返ってくるまでしばらくの時間が必要であった。
陰陽寮からの返事が来るまで阿蓮がするべきことは、十年前から中断していた惑星の調査を再開すること。そしてそれにはずっと外で活動をしていた爆竜の一族の協力を得ることが最も効率的である。
「まずは彼女達と話をしないとな。昨日はほとんど会話できなかったし……」
本当は昨日のうちに爆竜の女性達から詳しい話を聞きたかった阿蓮なのだが、彼がコールドスリープから目覚めたことにより彼女達は神が降臨したかのように興奮して、周辺の村に暮らしている仲間達にこの報せを伝えたり、祭りの準備を始めたりしてとても話が出来る状態ではなかった。ちなみに祭りとは当然、阿蓮がコールドスリープから目覚めたことを祝う祭りである。
「……!? これは……!」
「ねぇ、あれってもしかしてご主人様じゃない?」
「本当!? お目覚めになったっていう話は本当だったのね……!」
「ああ……! まさか生きているうちにご主人様にお会いできる日がくるだなんて……!」
「ご主人様ーーー! おはようございまーす!」
『『ご主人様ーーーーー!』』
爆竜の女性の一人が式艤神から出てきた阿蓮に気づくと、それを聞いた他の爆竜の女性も彼に視線を向けて声をかけてくる。一人一人の声は大したことはなくても、数百人が一斉に声をかけてくれば話は別で、阿蓮は数百人分の声に驚いて思わず一歩後退りする。
「お、おおう……? そ、そう言えば爆竜の一族って千二百人を超えているんだっけ?」
「はい。その通りです」
湖の外側に集まっている爆竜の女性達を見ながら阿蓮が呟くと、いつの間にか一人の爆竜の女性がイカダに乗って式艤神のすぐ近くまで来ていた。爆竜の女性達は全員同じ顔に体型な上に服装も同じなのだが、状況から考えて昨日彼に話しかけてきた爆竜の女性と同一人物なのだろう。
「昨日は興奮のあまり、ろくにお話ができす申し訳ありませんでした。私を含めて皆もご主人様とお話がしたいのですが、ご主人様がよろしければ一緒に向こうへと行きませんか?」
「そうだな。丁度俺も、君達から色々と聞きたいことがあるんだ」
爆竜の女性が頭を下げて謝罪してから言うと、阿蓮はその言葉に頷いて彼女のイカダに乗るのであった。
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