目覚めたらそこは楽園だった?(3)

 任務で銀河の辺境にある未確認宙域の調査に来た阿蓮は、未確認宙域の奥地で一つの惑星を発見した。そこは開発をしなくても最初から人が住める環境の惑星だった。


 未確認宙域の調査で発見された惑星は、調査を行った陰陽師に惑星の所有権が与えられる。これは未確認宙域の調査が陰陽師の仕事となったのと同じ理由で、すぐに救援が望めない未開発の惑星で悪霊体デモナスに襲われても陰陽師なら己の身を守って惑星を開発してくれるのを期待してのことである。


 しかし調査で発見される惑星のほとんどは人が住める環境ではなく、開発はまず最初に人が住める環境にするところから始まる。この時点で多額の費用が必要で、陰陽師の多くは自分が発見した惑星の所有権を貴族に売り渡したり、貴族や大手の企業と共同で開発を行う。


 以上の理由から最初から人が住める環境の惑星は、砂漠に落ちた一粒の宝石のように希少かつ貴重で、それを見つけた阿蓮は大喜びで詳しい調査をするため惑星に降りた。だがその喜びは長くは続かなかった。


 惑星には未知のウィルスが存在していて、調査を開始してすぐに感染したからだ。


 ウィルスを解析したら結果、ウィルスは治療をしなければ確実に死に至る凶悪なものであることが分かった。更に未確認宙域の調査任務で未知のウィルスに感染した場合、救助隊までウィルスに感染する二次被害を防ぐために救助は呼べない決まりとなっていた。


 ウィルスに感染した阿蓮が取れる選択肢は、長期睡眠カプセルでコールドスリープを行ってウィルスの侵攻を食い止めている間に、治療装置にウィルスの特効薬を開発させることだけだった。


 そしてコールドスリープを行う直前、阿蓮は自分が乗っている式艤神スターゲイザーの守護をさせるために一体の式姫神サポートユニットを創造したのである。


「本当に君達が、俺が作った式姫神なのか? でも俺は一人しか式姫神を作っていないはずだけど……?」


 長期睡眠カプセルに入る前の記憶を思い出した阿蓮が聞くとイカダに乗った女性、彼が創造した式姫神「爆竜」の一族の一人は頷いた。


「正確に言えば私達はご主人様が創造された式姫神、その子孫です」


「子孫? ……もしかして単為生殖!?」


 爆竜の女性の言葉に阿蓮は驚いた顔となって彼女を見る。


 式姫神は全て人間に近い若い女性の姿で産まれて、死ぬまで同じ姿であるがこれには理由がある。


 人間に近い姿なのは、戦闘時に陰陽師と連携を取りやすくするだけでなく、戦闘以外の場面でも陰陽師の補佐をさせるため。


 若い女性の姿なのは、自分だけで子供を産む行為、単為生殖をさせて戦力と労働力を増やすため。


 しかし理論上は自分の意思で自由に単為生殖が行える式姫神なのだが、実際に単為生殖を行うにはその式姫神にとって最適な環境が必要であった。式姫神にとって最適な環境を解析して再現するのは神聖ヤマト皇国の技術力でも難しく、阿蓮も単為生殖を成功させた式姫神の噂は聞いたことがあるが、実際に見たのは初めてであった。


「ここにいる女性達が……全員俺の式姫神?」


「いいえ、私達だけではありません。ご主人様が眠っていたこの湖の周辺には十の私達爆竜の村があります。そこに住む爆竜の一族の数は、確か今年で千二百人を超えたはずです」


「……マジでか」


 阿蓮が思わず呟くと爆竜の女性の口から予想を遥かに超える言葉が出て、それを聞いた阿蓮は信じられないといった表情となる。


(千二百人を超えた式姫神? 父さんを一気に越えたんじゃないか、俺?)


 心の中で呟く阿蓮は自分の父親の顔を思い浮かべる。


 神聖ヤマト皇国の貴族である阿蓮の父親は、彼の実の母親を含めて三十人以上の妻がいる。阿蓮の父親が言うには、妻となった女性達は全員、昔それぞれ事件に巻き込まれたところを助けたのが出会いだったらしいが、本当かどうかは定かではない。


 ちなみに最初は陰陽師に興味がなかった阿蓮を、無理矢理陰陽師にしたのは彼の父親なのだが、それはまた別の話。


 目覚めたら予想を超える出来事の連続でいい加減混乱してきた阿蓮だったが、この場に集まった自分の式姫神、爆竜の女性達の姿……特に胸と顔を重点的に見て結論を出した。


(まあ、全員巨乳だし美人だから別にいいか)


 射国阿蓮。この男、父親に似て業が深く楽観的な性格をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る