帰り道


ガァガァと、歩道を歩いていると

その隣の車道の煩いこと。


少し、煙たくて

でもこの道が、帰る道だから避けようもなくて

最初の頃は排気ガスに、喉を傷めた。

今でも空気は悪いなとは思うが、同じ道路をずっと

同じように歩いていると、慣れてくる。


肺が、真っ黒になっていないか。


「…では、ニュース…お伝え…」


脇道の、モニター画面からニュース番組が流れている。

この時間になると大体、ニュースに出くわす。

バラエティとか、お笑いとか。そういえば見てないな。

でも、ニュースは好きではない。


こんなありふれたニュースで、自分の被害は淡々と語られて

時間とともに風化する。

名も興味ない誰かが、勝手に持論を吹聴しては、他人事のように。

それが仕事なのだから、仕方ないにしろ―


「…」


ザァザァと、脳裏にこびりつく。

ノイズ―

煩いほどに、こういう時に限って静まらない。

ああ、そう。こんな風に俺の家族は


『…「」の手によって、被害が増し…』


―しぃ。


『残された遺族を、「」は…』


―やか、ま。


『(□□□□)として、特定医療対象の…』


「や、やかま…っ」



その時だった。

目の前の視野が一瞬、ふわっとして

それから鮮やかな「赤」を見た。


―よく見るとそれは、


「…大丈夫?具合、良くなさそう」

「え…」


赤い花、を持った

少女だった。

俺より幾分が年下ぐらいか、それとも幼く見えるのか

どこかの店のエプロンをしていて、花の模様が描かれて…


「具合…あ、うん…大丈夫」

「そう?じゃあこれあげる」

「え、い、いらな」

「いいの、じゃあね」


そういって少女は俺に花を握らせて、目の前から立ち去った。

その花は、確か。えっと、聞いたことある。

あんまり縁起のいい花では、無かった気が。


―えっと…


「…彼岸花」

「えっ」

「その花、彼岸花」


気づいたら、隣から声をかけられた。

そこには見知らぬ青年が。

姿勢の悪い俺を長身の利を活かして、見下ろしている。

少し長めの白髪で、黒いスーツに…老けているわけでもなく、美丈夫かといえば、薄命的な…何となく、普通だけど異質にも見える。


「…あの子の事、変に思わないでくれ」

「え?」

「□□□□、なんだ」

「…ぁ…」


聞きたいわけじゃないから、脳が勝手に

伏せていた。

彼は、あの子の事を


「SS:スカーレットシンドローム」と言った。



「別に君に深入りするわけじゃない。僕は彼女の保護観察を担当している」

「…」

「普通の人が手にしたら、違和感を感じるだろう?でも、それがあの子の普通だ」

「べつに…大丈夫です」


―意味は、教えられていない。

でもある出来事の、遺族の事を

そう呼ぶように決められている。

俺の家の、確かどこかにも、えっと…あるはず。


その病気の認定書が。


「悪かったね、花。もらおうか?」

「…いえ、いいです」

「具合が悪そうだ、良くないんじゃないかな」

「だい、大丈夫、です!」


そうして、俺は乱暴に

その場から駆け出していた。

そんな運動なんて、日頃してないから

肺がなんか、バクバクする。


「煩い!心臓!」


命が、痛くなるほどに―



「…」


過ぎ去った、あとに残された

一人の青年は

過ぎ去った、青年の後姿を見えなくなるまで見つめ


―カチャ


…TLLL…


「…あ、すみません。僕です」


誰かに、電話をかけていた。

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