息苦しい日常
「…」
沢山の、患者の往来はあれど
さほど煩くはない。
看護師も受付も、その病院にいる誰もが俺含めて
とても静かだ。
私語や、雑談、煩くするのは厳禁で
無機質な空気だ。
でも、必要以上に喋る事もない。ここは精神科診療なのだから。
各々に患者は自分の事を苦しみながら、他者に寄り添う余裕もなく
診察を待ちわびる。
「…」
家族を失った時から、俺は
とある支援を受けながら生活している。
勿論、俺は特例なんだろう。そんな待遇が全員に該当なんてしない。
でもそれからずっと、俺はふらふらしながら
この精神科診療にて治療を受け、生活している。
最初は違和感も感じたが、時を重ねるうちに
そんなのどうでもよくて。
ーきっかけは、突然だった。
まあそもそも対策など練れるはずもなく。
両親が、目の前で殺された。
俺だけが生き残った。
「…」
まだ小さかった俺に、十分な傷を抉り
重だるい毎日だけが残る。
「…間凪さん、呼ばれてますよ」
「え、ああ。どうも」
ぼーっと待っていると、看護婦が自分の順番を呼んだ。
幾人かがその声に自分かと反応する。
俺は席を立ち、診察室に入った。
ーカチャ
「失礼します」
「どうぞ」
患者席の向かいに、俺を担当している医者が座っている。
整った髪型に、真意を隠すような眼鏡。
患者の一人一人に寄り添うと、しんどくなると聞いた。
だからその医者には何かこう、フィルターのようなものを感じる。
その行動はたぶん正しい。万民に100%全力投球するものなら
医者が多分きっと病む。
「今日は、どんな感じですか」
「特に…まあ、いつもの夢です」
「誰かと話している、夢ですよね」
ずっと、あの目覚めの前を
医者に相談している。
でも実際それは夢ですね。なんてはっきり認識できない。
曖昧な部分もある。
ぽつり、ぽつりと話すことは
簡単なようで難しい。
俺が抱えている、話さなくてはいけないこと。それは
呼吸を奪うぐらい、重たいんだ。
「夢の中で肯定される、それは嫌なことですか?」
「嫌、とははっきり言いませんけど…」
「なんだかもやもやする。そんな感じですか?」
「ええ、まあ…はい」
それから、食事はとれているのか。
この診察の日までにどんな生活を送れていたのか
医療的な問診が続いた。
「…疲れましたか?今日はここまでにしましょう」
「はい」
喋るのって、しんどいよな。
生きてる自分がしんどいのに、それを説明しなくちゃいけないんだ。
でも喋っても解決しないから、まだこの病院のお世話になる。
解決策の見えないぼんやりとしたトンネルをずーっと歩いている。そんな感じだ。
そうして、部屋を後にする時に
俺は必ず、先生に一礼をする。
教えられたわけでもなく、でも、何となく感謝もしていない。
ぼんやりと、そうする事が普通という風に身についてきた。
泡のような常識を、しているだけで。
「…失礼します」
「はい、では。また」
そういえば
なんだか
「部屋の模様」少しまた
変わったかな。
―
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