0.limiter

たくあん

第1話:幻の先の君と

記憶の中に、色を例えるならば

難しく考えず「赤」だと表現するだろうか。

よく言われる、苦しむぐらいなら忘れてしまえそんな過去。

だけど上手く言えないが、脳裏にこびりついて、落せなくて

未だに自分の諸々に支障をきたす。


「良くないね」


横長のテーブルに白のテーブルクロスが目の前にあり

俺はそこに座っている。

対角線上のその先には、目視できない「誰か」が多分居て

そこまでの実際の距離は測れずとも、テーブルを埋め尽くす

様々な料理が並べられていた。


減る気配も、一向にないのだが。

とにかく俺はその光景を何度も経験している。

今も、進行形だ。


「ずっと、気に病むのは体に毒だ。心にもね」

「…」

「偲ぶ気持ちは尊いけれど、縛られるのとはまた違う」

「…煩い」


聞かれるんだ、そいつに。

今が苦しいかい?と。

勿論、苦しいさ。生きる事が苦しいさ。

そんな苦悩を何時も、そいつは慰めてくれる。

言葉は希薄、如何様にも。ただ、否定はしない。毎回だ。

そう望んでもいないはずなのに、俺を肯定する。


「…あんたは誰なんだ?教えてくれ」

「現実にはない僕を知っても君に意味はない」

「自我があるならあんたは、誰かではあるんだ。俺は無と喋っているわけではないんだろう」


最初は、幻だろうと思った。

だが、毎回「同じ事」をこの場に感じる。

それは、何となく体に染みつく。現実味を帯びて、0が1になるような感覚だ。

だから俺は毎回聞くんだ。


ーお前は、誰なんだと。


見えない先に、笑みを感じた。

具体的でもなく、本当に幻で、無いのかもしれない。

でも、俺はこの今を自力で作り上げた覚えもない。


「また、会うよ。そのうち」


そうして、はぐらかされるまでがテンプレートなんだ。


「…」

「美味しかった、ご馳走様」


減ってもいない料理に満足し、勝手な締めくくりを強要し満足とするそいつの声は



身勝手に、幕を下ろす。


「…」


まだ、薄暗く。

現実を感じる気だるさに、天井を見た。

電気を消したまま。でも朝が近いのだろう、少し光の気配を感じる。

こんな感じで、いつも目が覚める。

だからよく眠れた感じがしない。


「夢」からの帰還は

なんだか疲弊しているようで、そして「笑われているようで」


「…」


少し早いのはわかっている。

でも変に目が覚めて、起きようと思った。

今日は予定もある。全くの虚無な日ではない。

だから多少のしんどさも、暴力的に振り払う。


「起きよう…」


本当に、よく

相手の満足に翻弄されている、そんな気がすると

深くため息をついた。

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