第4話 「山の上のヤオワオ」①
「……あっ」
小さい声をあげて、少女は両手にかかえていた、自分の顔より大きなキノコで顔を隠した。
そのまま微動だにしない。
あれで隠れているつもりなのか、と静岡は少し可笑しくなった。
紺地に黄色や赤の刺繍が入った、体にぴたりと合った衣装を着て、ひょうたん型をしたカゴを肩にかけている。
カゴから薄橙色の実が、ごろんと落ちた。
しまった、と言いたげな顔がキノコの下から現れて、しゃがみこんで少女は実を拾う。
ピアスはしているが、ヒスイではなくルビーだった。
長い黒髪、しかしこちらの少女はうねったような黒髪をしており、童顔ではあるが美人ではない。小柄で素朴そうな少女だった。
「……あちらから……来た?」
ちら、と少女が一瞬だけ視線を合わせてカタコトに聞いた。
「あちら?…。ああ、うん」
静岡がうなずくと、無理やり自分を納得させようというように少女も大きく頷いた。
カゴを肩に背負い直す。
「……ついて来て。ヤオワオの家」
ーーーーーーーーーーー
果樹園を抜けたとき、崖に出て、静岡は思わず声をあげた。
目の前に、水墨画のような景色が広がっているのだ。
霧でかすむ先端の尖った山々の間に、雲海がある。風に流されて、川のようにたゆたう雲海を見て、ここが日本の里山などではないことを思い知る。
「ここ、ヤオワオの家」
崖沿いの荒れた山道をのぼっていくと、赤い壁の大きな家が見えてきた。
家の前は開けていて、庭として手入れされているのか、小道を挟むように小さな畑や、花壇がつくられている。
ドアの前で、二人の男が振り返った。
「あ、お前ら」
一緒に船に乗り込んだ男たちだった。
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