第2話 命日日和①



 先に店を出て行った男は、紙幣と一緒に写真を残していった。


 静岡は紙幣をつかんで、通りかかった店員に食後のアイスを注文する。


「……この子、組長となんかあるのか?」


 写真には派手柄のシャツに帽子を着こなした組長と、民族衣装風の少女が写っている。


 六角柱型のヒスイのピアスが目についた。

 10代後半、長い黒髪、美人寄りの童顔、はにかんだ笑み。

 別にこの界隈でも出会えるレベルだろうに、と思う。


 ただ、写真の組長は少女の肩を抱き寄せ、見たことないほど柔和に笑っていた。


 ……愛人? 孫娘?


「ま、いいや」


 アイスが運ばれてくると、静岡は写真をテーブルに置いて、スプーンを手にした。




   ———————————————-




 それから二日が経ち、他に依頼もなかった静岡はアパートのベッドに転がっていた。

 ぼうっと眺めていたスマホが突然鳴り出し、跳ね起きる。


「……はいっ」


『俺だけど。明日の正午、港に来い』


 店で会った男の声がした。この男は最近になって、組からの仕事を静岡におろす仲役になったのだが、いまだに名乗らないのだった。


 俺だけど、に少し鼻白みながら、静岡は姿勢を正した。


「港ですか?」

『お前以外にも集まるから、まぁ行けば分かる。写真は持って行けよ』

「異世界って、あっちに滞在するんですよね」

『そうだ』


 どこに泊まればいいのかと聞く前に、じゃあな、と通話が切れる。

 イラついてベッドに叩きつけようとしたとき、再びスマホが鳴った。


『言い忘れてた、お前泳げるよな?』



 その言葉がどういう意味なのか、翌日になって静岡は思い知ることになる。



 男に指定された小さな港は、もっぱら地元民が荷物運搬や釣りなどに使うようなプライベートな場所だった。


 いつもは濁って泡立つ水面も、今は日差しを照り返してきらきらしている。

 係留しているボートやクルーザーが静かに波に揺られていた。


 静岡が港につくと、一艘の白い小型船舶の前に数人の男たちが集まっていた。

 みな手持ち無沙汰で、誰かが来るのを待っているように辺りを見ている。


 静岡が近づいていくと、一斉に視線が向けられた。


 やくざ崩れのような奴、おどおどした会社員、髪型のセットも崩れ、殴られた顔が痛々しいホストなど、香ばしい顔ぶれである。


「お前がホワイトマンか?」


 やくざ崩れに聞かれて、「いやいや」と静岡は片手を振った。

「俺も呼ばれた側だけど。……」


 舌打ちされて、視線をはずされる。


 ……何だかな。この顔ぶれ的にかなり嫌な予感しかしねー。


 それからホワイトマン、というのはまさかあのオールバックサングラス男の通り名なのだろうか。


「お待たせ、皆さん。今日はいい天気でよかったねえ、絶好の命日日和じゃない」


 鼻にかかってうわずった、甘ったるい男の声がした。













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