045 人質との闘い
「――――」
「……どうした、かかってこないのかい? ククク……いや、手が出せないんだよなァ?」
リヴィアさんを乗っ取った男は声高らかに挑発してくる。
だが、こちらは何もしない……いや、男の言う通り何もできないと言った方が正解か。リヴィアさんは人質でもあるのだから、こちらから傷つけるわけにはいかない。
……まだ自傷行為で脅してこない辺り、まだ状況としてはマシなのだが。
(リヴィアさんを傷つけずに無力化する方法は……一つしかない)
それはリヴィアさんの武装……あの剣を使えなくすることだ。近接戦での打ち合いで摩耗させて叩き折る。そうすればリヴィアさんの剣技は無力化されるはずだ。
……そのため、リヴィアさん本体を傷つける手段は避けるべきだ。
時計の針による遠距離攻撃や、コーカスレースのような致命的な一撃を与える技は――そもそも消耗して持ち合わせていないのもあるが――使えない。
――《ウェポン・スキル「金の鍵」》
この状況を打開できるであろうヴォーパルソードは腰のベルトに差して、召喚した鍵を構える。万が一にこちらのヴォーパルソードが破損するような事態になってしまっては解決の糸口が無くなる。
だから俺はこの鍵で近接戦を挑み、武装解除を試みてからこのヴォーパルソードで呪縛を解除する。それしか今の俺には策が無い――
「はぁあああ――!」
「さァ――来い!」
本来、剣の打ち合いは消耗行為だ。じゃんけんで例えるなら“あいこ”のように無意味な行為。だが、俺はそれを目的としているため問題は無い――!
「! ……なるほど、目的はそういうことか」
その戦術が露骨すぎたのだろうか。敵の語り手に俺の狙いがバレてしまった。
……だが関係ない。お前が俺と戦おうとする限り、武器の摩耗は避けられないのだから。
「いやぁ、優しいねぇ――ッ!」
――半弧形に描かれる銀と金の軌跡。
両者の武器は打ち付け合いで同等に摩耗しつつある。こちらの鍵は鍵山の部分が変形し、リヴィアさんの剣は傷跡の反射が目立つようになってきた。
だが、こちらは武装の替えがある。金の鍵はまだ貯蔵が十分だ。
……いける。この調子ならいける――!
「――《アタック・スキル「ウルフズクロウ」》ッ!」
そんな確信を切り裂くように、リヴィアさんの剣技が放たれる。
まるで獣の爪だ。たったの一振りで三つの斬撃が同時に襲い掛かる――
「そんなまる分かりな――!」
熟練者であるリヴィアさんではなく、男が操っているのもあるのだろう。驚異的な一撃だが、まるで素人。狙いがわかりやすい攻撃だった。
俺は鍵を盾のように構えて受け流す。
それだけで攻撃はいなされ、相手の武器は摩耗する――が、
「ッ、《アタック・スキル「スリーパニッシュ」》!」
「……!?」
敵は、体勢や体力など問答無用に次の剣技を放ってきた。
一撃で俺の鍵の盾を弾き、咄嗟に手繰り寄せた俺の鍵を二撃目で叩き、三撃目の突きで俺の鍵を弾き飛ばした。
突き飛ばされた鍵は俺の後方へと突き刺さる。
「――《アタック・スキル「メテオスラッシュ」》!」
「ッ!」
――《ウェポン・スキル「時計の針」》
徒手空拳となった俺の隙を突くかのような剣技。
弾き飛ばされた武器の代わりに、急場凌ぎで代用の武器を召喚する。
クナイを両手に握ってクロスを組み、真っ向から叩き伏せる大振りの一撃を全身で防いだ。地面は僅かに陥没し、土の地面に亀裂が走る。
『そんな……そんな頻度で呪文を連続使用したら体への負荷が……!』
「ハァハァハァハァ――ッ、ハ、ハハハハハ――!」
「! やめろ! それ以上呪文を使うな!」
リヴィアさんの呼吸はまるで蒸気機関車みたいだ。過呼吸に陥りそうな頻度の呼吸。少女の言う通り、過酷な剣技の連続使用に体が追い付いていないのだろう。
――《ウェポン・スキル「金の鍵」》
――止める。今すぐにでも止めてやる。
俺はクナイを使って力業でリヴィアさんの剣を打ち払い、咄嗟に取り出したトランプで武器を構えて、渾身の一撃で武器を叩き割る――!
「か、カタルちゃん……やめて……」
「……!?」
だが、狙った剣は隠された。振りかぶった延長線上にはリヴィアさんが――いつもの声で――立ち塞がった。
鍵剣が宙で止まる。当然だ。彼女を傷つけるわけにはいかない。
まさかリヴィアさん、自力で語り手の呪縛から逃れたのか……?
「ハ――なーんちゃってェ……! ――《アタック・スキル「ウルフズストライク」》!」
「ッ!? うぐ――!」
男のあざ笑う声が聞こえたかと思うと、ドスンと鈍い音を体で聞く。
腹部には目にも止まらぬ勢いで放たれた剣が突き刺さっている。じわりと血がにじみ、痛みが走り抜ける。
「ヒャ――アハハハハ――!」
貫いた剣ごと俺を持ち上げ、振り払うように地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけられた勢いで俺は転がり、転がり――その途中で、何かが俺の体から零れ落ちる感覚を覚えた。
(……あ。あれ……痛みが、無い)
先ほどまで脳髄に走っていた激痛がピタリと止んだ。まるで傷が無くなったかのように。
……いや、それだけじゃない。俺の体が、少女のものではなくなっている。男の体だ。元に戻っている。
「ッ、あの子は――、ッ!」
転がる途中、何かが零れ落ちたような感覚はきっと少女が抜け落ちた感覚に違いない――そう直感的な確信を持って周囲を見回す……と、目の前には倒れた少女の姿があった。
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