033 失踪者
『……行方不明、ねぇ』
重たい雰囲気の中、頭の中で少女が構わずいつも通りな雰囲気で事実を口にした。
リヴィアさんが、行方不明……しかもタイミング的には俺と別れた後とのこと。
どうして帰ってこないのか、行方をくらましているのかはわからない……が、推測が一つだけある。
「……俺のせいかもしれない」
『何?』
ギルドの建物の裏で、俺は壁に寄りかかってそう呟いた。
もしかして、俺が逃げ出したりなんてしたからそれを探していたりするのではないだろうか。俺が現実世界に帰れることなんてリヴィアさんは知らないから、未だに捜索を続けているのではないだろうか――
「どうしよう……俺のせいだ。俺が無責任なことをしたからだ」
頭を抱える。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
これは完全に俺のミスだ。俺が招いた事故だ。どうすれば、どうすればこの失敗を取り返せるのか――
『――チッ、おいこらアンタ。顔を上げなさいよ』
「あ――ッ、痛ててっ!?」
ガシッ、なんて音が聞こえそうな感じに俺の頭が上から鷲掴みにされ、無理やり顔を上げさせられる。
そこには実体化した少女が立っていて、なにやら呆れて怒りを感じているような表情を浮かべて俺を睨みつけていた。
『アンタは抱え込みすぎなのよ。一つのミスに毎回そんな顔をされてたらこっちが困るってもんよ』
俺の首元に指を突き付けて少女は続けて口を開く。勢いは止まらない。
『そもそも、あの女が要救助者を探して自分が遭難者になる――なんて間抜けをするようなタマだと、アンタは思っているの?』
「……いや、そんなことは」
『でしょ。それが答えよ。これがアンタが招いた事態なんだろうけど、それに伴う他人のミスまで背負い込むのは違う』
……他人のミスまで背負い込むのは違う、か。
いや、でもこれは全部俺が招いたことであって、他人のミスなんて存在しない――いや、その考えがそもそも背負い込んでいるってやつなのか……?
『私としては別にアンタのミスとかは興味ないんだけど、その辺でウジウジしてるのは見てられないから口出しするわ。だからアンタは肩入れしすぎなの』
――――第一ね、アンタはこの世界に肩入れしすぎ。あくまでこの世界は戦場ってだけなのよ!
いつぞやの言葉を脳内でリフレインする。
あの言葉そのものは拒絶したい意見ではあるが、今思い返せば学べるものもある。
彼女の考え方には周囲に対する距離感がある。とはいっても拒絶じゃなくて、自分に利があるかというビジネスライクな考え方が。
その考え方自体は悪いものじゃない。むしろ、俺みたいに背負い込みがちな奴には必要な認識というやつなのだろう。
「……じゃあさ、君ならこの場合どうする」
『うーん、そうね……あの女が帰還するまでのんびり待つ、かな。わざわざ森へ探しに行くのは反対よ。語り手が潜んでいる敵地に自ら踏み込むのは危険すぎるわ』
……それは、できない。
背負い込むとか関係なく、万が一にも危ない目に遭っているかもしれない人を放置するのは俺にはできない。
だから俺にできること、俺が選べる選択肢は――
「……五枚だ」
『は?』
「魂石を集めてカード五枚分の戦力を補ってやる。だから森に入る。それでいいな」
『んな――あのねぇ、私の話聞いてた? あの森にはモンスターを操る語り手が確実に居るのよ!? なのに踏み込むだなんて――』
「――だったら、俺がその語り手をブッ倒してやる。相手の正体はわかっている。そいつを倒せばリヴィアさんを探しに行ってもいいよな」
無謀は承知で、少女がああ言えば俺はこう言ってやる。
俺は力強い説得と共に少女の肩に手を置いて、少女を反対の壁へ押し込む。俗に言う壁ドンみたいな感じだ。
『……アンタって、ウジウジするけど決意が固まったら頑固よねぇ』
俺に押し込まれながら、少女は俺の勢いに圧倒された様子で、少々引きつったような笑みを浮かべてそう言い返してきた。
「誰がその決意を固めたと思ってるんだ。俺はやるよ、やってみせる」
その言葉を真っ向から受け止める。まるで神にでも誓うように、俺は“やってみせる”と宣言してみせた。
するとこわばっていた少女の体から力が抜ける。まるで観念したかのように。
『ハァ……わかった、負けよ負け。そこまで言うなら森の中に行ってもいい……』
「……! やった! ありがとう」
『ただし! 五枚って約束、忘れないでよね?』
「ああ、やってやるさ。リヴィアさんを探すついでにな」
『ッ、ちゃっかりしてる……! アンタ実は取引とかで図太くフッかけられるタイプの人間でしょ』
「さあな。でも最近は君に対して遠慮のない性格になったと思うよ」
『初めて戦いに行く時も思ったけど、アンタは間違いなくやる時はどんな交渉を使ってでもやる人間よ。譲れないものはとことん譲らないと言えばいいのか』
あの時――この村を守ろうと初めて戦った時。俺は変わりたくて戦った。
リヴィアさんのように何かを守ることができれば、俺も自分が好きになれるんじゃないかと思って――やっぱりそんなに好きになれなかった。
でも、そうか……譲れないものは譲らない、かぁ。
「芯を曲げず、自分を貫き通せる自分は……ちょっとだけ好きだな」
『何の話よ』
「こっちの話だ。それよりも急ごう。モタモタしてると日が落ちる」
■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます