025 無謀な迎撃戦
「モンスターの襲来……?」
『……気配は雑魚しかいないけど、数は――、! 何よこの数、ざっと百は超えているじゃない』
「百を超えてるだって……!?」
少女は雑魚と表現しているが、それでもモンスターはモンスターだ。それが山のような数でこの村に押し寄せればどうなるか――想像の範疇を超えはしないが、大惨事になるのは間違いないだろう。
『妙ね……どうしてこんな村に大群で押し寄せて来るのかしら……まさか――』
「分からないけど、やることは一つだろ……!」
『ちょっと待ちなさいな』
「――っ、!?」
森の方へ駆け出そうとしたその時、左腕を掴まれる感覚。
脳内ではなく、すぐ隣から少女の声を聞いて振り返ると、そこには俺の手を掴んで引き留める少女の姿があった。
「……? なんだよ、どういう気だよ」
『そっちこそ何をやろうとしているの。私達の武装はもう使い切っているのよ。そんな状態で戦う気?』
「だからって指を咥えて眺めてろって言うのか!?」
『ええ、そうよ! 今アンタに死なれたら全てがおじゃんになる……第一ね、アンタはこの世界に肩入れしすぎ。あくまでこの世界は戦場ってだけなのよ!』
「っ……!」
掴まれた腕を強引に振り払う。
……この子は俺に気が合ってきたと言ったけれど、俺はやっぱりこの子とは分かりあえそうにない。
俺はこの世界の住民を等しく人だと感じているが、この子はこの世界をフィールド――住民を背景の一部――としか捉えていない。その認識の乖離が致命的に噛み合わない。
「とにかく、俺は俺のやりたいことをやらせてもらうからな!」
『……勝手にしなさい、この馬鹿。死んだら承知しないわよ』
「俺は自殺未遂者だぞ。死後のことなんか気にしてるもんか」
俺は吐き捨てるように言って、森の方へ駆け出す。
モンスターが何処からやってくるとかはわからないが、それがわかる少女には今は頼りたくなかった。
『……カタル』
駆け出す足音に混ざって、俺の名前を呼ぶそんな声を聞いたような、気のせいなような。
■
暗い森は妙に静かだった。
鳥のさえずりも虫の声も、何も聞こえない。まるで森の生き物はすべて、何かから隠れているようなそんな雰囲気。
「はぁ、はぁ……」
闇雲に休みなく走り回ったせいで呼吸が乱れてきた。
静かな森の中に俺の声が響く。そのせいで悪目立ちしているようなそんな感覚がする。いや、上等だ。目立てばモンスターの方からこっちにやってくるかもしれない。探す手間が省けるってやつである――と、
「――? 鳥の鳴き声?」
ふと、そんな静寂の森の中で一つの声が鳴った。
甲高く、透き通った音。鳥の鳴き声……だろうか? いや、それにしては音程があまりに綺麗で……なんというか、人の息遣いを感じる。
『っ! 何をぼーっとしてんの! 気をつけなさい、囲まれそうよ!』
今の音は一体なんなのだろう――そう思った直後、頭の中で少女が警鐘を叩き鳴らした。
「……!」
目立てばモンスターの方からこっちにやってくるかもしれない――だなんて無計画な考えはあまりに無謀だと遅れて思い知らされる。
急にざわつく森。
暗闇に点々と大量に浮かぶ赤い目。
気がつけばそこには、壁のようにうごめく影が――
「――ッ!?」
脳天目掛けて飛んできた飛来物――矢を咄嗟に上半身を捻ることで回避する。
……今のは先制攻撃だ。問答無用で外敵を排除しようとする動き。まだ本気の攻撃ではない。
『ゴブリンだけじゃない……なによこれ、モンスターの百鬼夜行じゃない!』
――そして、その攻撃を回避したということは、目の前のおびただしい量のモンスターを全て敵に回したということでもある。
ゴブリン、大きなネズミ、スライムのような軟体の敵の数々。
……なるほど、百鬼夜行というのは言いえて妙だ。大型のモンスターは居なくても、この量を敵に回すのは確実に骨が折れる。
「――――」
――《ウェポン・スキル「金の鍵」》
――《ウェポン・スキル「時計の針」》
無言で二枚のカードを咄嗟に引き抜き、両手にそれぞれ握りしめる。
先制攻撃から本攻撃へ切り替わる刹那の時間。その隙に敵を見定める。
……機動力のあるネズミが前衛、中間に斬撃が効かないスライム、後衛に弓矢を構えたゴブリン――まるで異種族で構成された一つの部隊だ。
それを疑問に思う自分を捨てて、ただ戦うことだけを脳に叩き込んで備える。まるで走り出す直前のスプリンターだ。
「…………ッ!」
静寂は一呼吸のうちに破られた。
鳴き声のように弓のしなる音。放たれて空気を切り裂く矢。
後衛からの一斉掃射を俺は手にしたクナイで迎え撃つ……!
――《ウェポン・スキル「時計の針」》
「――ッ!」
武器を召喚し、再度構えて投擲し、再度召喚する。
――《ウェポン・スキル「時計の針」》
一切の出し惜しみはしない。カードを粗雑に引き抜いて次々に投擲する。
敵の後衛部隊と同じ戦力を俺一人で再現するのは、この体であっても難しい――が、俺に命中するであろう攻撃のみに焦点を合わせればできなくもない。
「……!」
矢を寸でで掠めるように回避し、鍵を盾にしながら遠距離のうちに矢をクナイで撃ち落とす。
……こちらが攻めに転ずるのは、敵の後衛の攻撃が止んでからだ。前衛を攻撃し、後衛に飛び込み殲滅。その後は残った
「…………ッ」
クナイはもう底を尽きた。
手にした武器で矢を撃ち落とすことに専念し続け、ただ渇望するようにその逢瀬を待ち続ける――
――そうして、一瞬の静寂――攻めに転ずる時が訪れた。
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