018 エルディア村
『……って感じ。仮契約相手に話せるのはそこまでかな――ってあら、もう到着したわけ?』
「……頭がうるさくて痛い。あとこの体やっぱり慣れない」
少女からの講義を長々と受けていると、気がつけば森の中を抜けて村に到着した。
案の定というか何というか、俺はまたしても少女の体である。
「村は……静かだな」
『そうね。前夜に騒ぎがあったとは思えないわね』
少女の言う通り、村の様子は穏やかそのものだ。昼頃ということもあってか、むしろ昨日の夕方よりも活気すら感じる。
「なあ、何処に行けば昨日の事件について聞けると思う?」
『私は万能辞書じゃないのよ。とりあえずギルドにでも向かえば? この村の事件に関してはギルドが主体で動いてくれてるっぽいし、情報を握ってると思うわよ』
文句は言いつつも、それでもちゃんと答えてくれる少女なのだった。
俺は少女の言葉に従って“ギルド管理センター”と書かれた――そういえばこの世界の文字は日本語だな――と書かれた看板を掲げている建物に入ることにした。
ギルドの中の様子は静かで、まるでお淑やかな喫茶店を思わせるものだった。
俺は少しオドオドしながらもカウンターまで近づいて、受付にいる中年ぐらいの男性に声をかけてみる。
「……あのー、すみません」
「? なんだい嬢ちゃん、迷子かい?」
「い、いえ、そういうのじゃないんですけど……ええっと」
身振り手振りを交えて昨日の事件について俺は尋ねる。すると、中年ぐらいの男は「ああ、昨日のことね」と頷いて理解してくれた。
助かった……このまま迷子と扱われなくて。ちゃんと俺の――こんな少女の話を聞いてくれて。
「なんでも、馬車が横転する大事故があったらしい。乗っていた人はみんな怪我を負ったけど全員無事だよ。レーヴァンさん――ああいや、えっとだな、馬車に乗ってた一番年寄りの人なんだけど、今じゃ元気に馬の世話をしてるぐらいに元気さ」
「……そうでしたか。よかったぁ」
「それにしても、嬢ちゃんがなんでそんなことを? 知り合いでも乗ってたのかい?」
「えっと、まあそんなところです」
そうかそうかと、あちらの解釈で納得してくれる。
……と、ふと男から視線を外した際に、壁に貼られた地図が目に入った。そういえば異世界の情報――地形の情報が欲しいとか少女は言っていたな。
「すみません、そこの地図って頂けたりしませんか……?」
「地図? 地図って……ああ、これかい。これがどうしたんだ? 紙が欲しいなら端紙くらいなら分けられるが……」
「い、いえ! 紙じゃなくて地図が欲しいんです! 地図が!」
「地図か……それじゃあ」
男は俺に向けて手を差し出す。なんだ? 何の意味だ?
「……?」
「50レインだ。ギルドが発行してるものだから、悪いが有料なんだ。逆に50だしてくれりゃ喜んであげるとも」
「50レイン……?」
『この世界の通貨ね……チッ、資本主義め』
資本主義って……この少女、結構言うじゃないか。
しかし、“円”じゃなくて“レイン”か……生憎この世界の通貨は持ち合わせていない。どうしたものか……
『仕方ない……一旦仕切り直すわよ』
「……わかった。すみません、一度出直してきます」
「おう! 嬢ちゃんにでも出来る仕事の紹介ぐらいなら出来るから、仕事が欲しけりゃ何時でも来てくれよな! ああ、でも昼は休憩時間だから勘弁してくれよ」
笑顔を浮かべて俺に手を振り見送る男に手を振って、俺はギルドを一度出る。どうやら少女に何か案があるらしいのでそれを聞くことにする。
すると案の定というか、俺に話があるらしく少女は俺の前に姿を現した。
『……さて、あの地図は確かに欲しいわ。今後の動きとかを決める指標になるからね……でも有料、と』
「どうするんだ? まさか、地道に稼ぐとか?」
『それこそまさかよ。私そういう地味なの嫌いだわ……だから、怪物狩りを開始するわ』
「……怪物狩り?」
まさかの提案に俺は思わず首をかしげた。金を稼ぐのに怪物を狩る、だって……?
『前にあの女性……なんだっけ、一緒に風呂入ってた人』
「リヴィアさん?」
『ああ、そうそうその人。その人が言ってたでしょ。魂石を金銭に換える方法について。アレをやるわよ』
「……まさか、ジャバ……なんだっけ、アレみたいなのを狩るってのか!?」
『ジャバウォックね。まあそんな感じよ。幸い私みたいな物語の人物ってのは怪物の気配――大物か雑魚かなんかを感じ取れるの。だから狩りの効率は悪くない筈だわ。魂石集めと金銭も集まる。一石二鳥じゃない』
「いや、無理だろ……!?」
流石に首を横に振った。
だってあの初見でいきなり襲ってきたような怪物と戦うんだろ……!? 流石に滅茶苦茶が過ぎないか!?
『大丈夫よ。何のために私が武装を教えたと思ってるの』
「えぇ……」
『やろうと思えばあんな怪物余裕よ余裕。あのリヴィアとかいう奴よりも速く強く立ち回れるはずよ』
「ホントぉ?」
『私の体ナメんじゃないわよ。ほら! そのまま真っ直ぐ直進! 早速デカめの気配がするわよ……!』
「ううっ、わ、わかった。わかったよ……でも駄目そうなら尻尾巻いて逃げるからな!」
結局俺は言いくるめられてしまった。
でも確かに、まっとうに働いて金銭を稼ぐだなんて俺には――
『――さあ、アンタにはバンバン狩って戦いに慣れて貰うわよ』
物騒で恐ろしい少女の意気込みを脳内に聞きながら、俺は少々げんなりとしながら森の中にへと足を踏み入れた。
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