009 ドギマギとした更衣室
(乗ってしまったぁあああああああ……)
滅茶苦茶後悔して地面に両手両膝を着く。
今居る場所はお風呂の一歩手前、更衣室の中。
……いやぁ、あの魅力的な見た目のお姉さんに「一緒にお風呂入らない?」なんて言われたら無意識に二つ返事で答えてしまった。この
『なにやってんのよ、アンタ』
「いやほんと……何やってるんだろう俺……」
『ハァ……まあいいわ。私はアンタの中で寝てるから。事が終わったら私を呼びなさいよ~』
「なっ……!? おい! 俺を一人にする気か!? おい! ちょっとあのぉ!?」
頭をポンポン叩いて返事を求めるが、それっきり返事は返ってこなかった。
……困った。いやぁ、本当に困った。あんなボッキュッボンな女性と一緒に風呂に入るだなんて、数秒前の自分は一体何を考えているんだ、死ぬ気か……!?
「いや、落ち着け……今の俺は女の子だ……女の子……」
そうだ、今の俺は女の子。未熟な女性。
ならばそんな男のような邪念を抱くわけにはいかない。いや、抱いてはならない。
「……リヴィアさんは、遅れてくるんだよな」
頭の中で「ごめんなさ~い、ギルドへの手続きが~」なんて謝っていた過去のリヴィアさんの姿を思い浮かべながら、状況を冷静に判断する。
俺がするべき事は、まず服を脱ぐ。そして風呂に入ってリヴィアさんを待つ……たったこの二つだけだ。二つだけ……
(高すぎるッ、難易度が……ッ!)
まず服を脱ぐところから難しすぎるのである……!
それってつまり、見るんだよな!? 自分の体を! いや、あの少女の裸体を!?
「…………」
……試しに、スカートのベルトを手探りで外してみる。
決して、決っっして邪な思いは無い。やるべき事をやるのに必要なだけだ。そうなのだ。そうにちがいないのだ。
「ッ、あ――」
腰のベルトを外して、スカートのチャックを途中まで降ろしたところで、不意にスカートがポスン、なんて音を立てて地面に落ちた。
まるで大きな花のように自分を中心に咲いたスカート。それによって今まで隠されていた真っ白い布地がすっかり見えるようになっていた。
「……本当に、“無い”んだな……」
股の下――男にあるべきものが無いことを改めて認識する。
気分は……意外と普通だ。喪失感とかは少し感じるけど、元々“そういうものなのだ”とも感じている。
それもそうか。心の中は別の性別だとしても、体そのものは初めから変わらず女の子なのだ。やれナニを失ったとかそういう訳ではないのだから。
「……ハッ!?」
いけないいけない、思わずまじまじと観察してしまっていた。
誰かに怒られるわけでもないし、それこそこの体の持ち主である少女に何か言われるわけでもないというのに、猛烈に何か悪い事をしている気分になってしまった。
「い、急いで脱がないとリヴィアさんが来ちゃうや……」
急いだところで何か状況が変わるわけじゃないけれど、心構えをする時間が欲しい。今までそういったもの――女性の裸体を見る経験など、PCや雑誌でしか無かったのだから、生身で見るのは少々刺激が強い。
心構えをする時間というものは、つまるところ、これから来るであろう“衝撃”に備える準備が欲しいという意味である。
あの胸は直で見たら凄いだろうな……衝撃が。
「クソッ、脱ぐのが難しい服を着やがって……!」
ボタンをプチプチ外したと思ったら、変な金具で固定されていたり、もう一枚布があってボタンを外す作業を迫られたり……とにかく、見る分には可愛らしいが脱ぐのに忙しい服だった。
……これ、風呂上がりにもう一度着るんだろうけど、上手く着れるかなぁ。
「……ん?」
服を脱いでいる途中で、ふとある装飾品が気になった。
ふとももの上の方に付けているベルト。そのベルトにはまるでカードホルダーのようなものが付いていた。
「なんだろう、コレ」
ふとももから取り外してまじまじと観察してみるが、カードホルダーに納められているものはただのトランプだった。
絵柄が変わっていて、金色の鍵だとか時計の針? のようなものだとかが描かれているが、右上と左下には普通のトランプと同様に数字とマークが描かれている。
「……変なトランプだな。なんでこんなもの持ち歩いてるんだ?」
持ち主であろう頭の中の少女は答えない。本当に寝てしまっているのだろう。
なんだろう、ある種のファッションなのだろうか? トランプを使ったゲームが大好きだとか、もしかしたらトランプを飛ばして武器にするのかもしれぬ。
「??? へんなの」
しかし、どのイメージも空想を越えず終わる。
結局よくわからないままカードホルダーを脱いだ服と纏めて籠に入れて、風呂場にへと足を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます