008 “語り手”会議2
「バトルロワイアル……?」
突然出てきた物騒な単語を聞いて、慎重にその単語を聞き返す。
その単語の意味は知っている。創作上で時々お目に掛かる項目というか、一種のジャンルだった。
原典に当たるのは小説か漫画、映像作品だったか。集められた人が様々な手段でサバイバルと人間同士の殺し合いを繰り広げるというものだ。
今では結構メジャーなジャンルとなっていて、無料のゲームなんかでもそういったものを見かけることがあるようになってきている。
「その、殺し合いをするってことか……?」
『そこまで物騒じゃ……まあ、場合によりけりかな。多分大丈夫だけど保証はしかねるって感じ』
「大丈夫ってそんな簡単に――ああ、そうか、だからこの体……
『そ。その体になっている間は限度はあれど安全って訳。で、最後に残った物語と人間がこの異世界を制することができる……まああと、願いを叶えることができるわ』
「願いを叶えることが……?」
それはまあ、創作上においてはありきたりな報酬だった。
元々は生き残り、戦場から脱出できるというのが報酬であったが、今日のバトルロワイヤルでは、参加者が自主的に参加するための報酬が設けられているのはよくある話だ。
一番イメージしやすい物で、巨万の富とか。願いを叶えるというのも同じぐらいよく見る話だ……もっとも、実際にそんなことを言われると胡散臭いのだが。
『ねぇねぇ、今ので興味持ったかしら? バトルロワイアルに』
そんな感じに俺が無言で考え込んでいるところ、ズイッと顔を覗き込まれる。
まるでアレだ。そのバトルロワイアルとやらに勧誘する気満々といったやつだ。そんな表情をしてる。
「俺は……別に」
『だって願いが叶うのよ? アンタは自殺しようとしていたじゃない。だけど勝ち残れば死ぬ理由が無くなるかもしれないのよ? そうなればアンタもハッピーじゃない』
「……それは」
願いが叶えばハッピー、か。
本当にそうだと良いなとか思いつつ、願い事について少し考えてみることにした。
「……じゃあ、もし願いが叶うなら」
『ほう、やる気満々ね。良いことだわ、うんうん』
「さっきのお姉さん……リヴィアさんに恩返しがしたい、かな」
『……は?』
少女にもう一度顔を覗き込まれる。今度は“何言ってんのよアンタ”とでも言いたげな顔で。
『……何言ってんのよアンタ』
あ、ほら。実際に言われたのである。
『アンタねぇ……一生に一度の、なんでも叶う願いをそんな事に使う奴が普通いる? スケールが小さいのよスケールが』
「でも恩返しは……したい」
『…………』
何言っても駄目だな、と言いたげな表情をして少女は『やれやれ』と呟きながら俺から少し距離を取る。
『まあ、いいわ。それでも協力してくれる気にはなった? んじゃあ、お互いギブアンドテイクな関係でやっていきましょ』
「ギブアンドテイク?」
『ええ。私はアンタが居ないとそもそもこの戦いに参加できない。都合の良い人間が欲しいって言ってたのはそういうこと。で、アンタは私に協力して願いを叶える……どう? 悪い話じゃないと思うけど』
少女は片手を差し出しながらそんな提案を口にする。
ギブアンドテイク、か。こんな滅茶苦茶な巻き込まれ方をしたが、リヴィアさんだけではなく彼女にも助けてくれた恩はある。
だから、協力するのは良いのかもしれない――いいや、俺はしなければならない。そう思って手を差し出そうとして、
「――ねえ、カタルちゃ~ん! いる?」
と、そんな聞き覚えのある声が投げ込まれて
「リヴィアさん。どうして此処に」
『ハァ……』
小さく溜め息をついて仕方なさげにその場から消える少女。
彼女の言葉をかいつまんで理解するに、俺の頭の中に戻ったのだろう。多分ジャマにならないよう空気を読んで。
「カタルちゃん、やっぱり馬小屋よりも宿に泊まる気はない……? 今夜は多分冷え込むわ」
「い、いえ。大丈夫です……こっちの方が都合が良いので」
「? 都合?」
まだあの少女に聞きたいことは山ほど在るんだ。申し訳ないけどリヴィアさんのお願いは断っておこう。
「そっか……決意は固いのね。私のあげた魂石、大切にしてくれるのは嬉しいんだけどね」
「はい、ごめんなさい……だから――」
「――それじゃあ、ねぇカタルちゃん。寒くならなくて済むように、一緒にお風呂に入らない?」
そうそう、例えどんなお誘いでも断らねば――ん?
「……へ? お風呂?」
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