カンガルーくんはボクシング王者

三木詩絵

草原のカンガルーくん

<草原のカンガルーくん>

ピョーン、ピョーン


草原を元気にとび回るのは、大きなからだのカンガルーくん


ピョーン、ピョーン

カンガルーくん ジャンプが、だーい好き


ぼくは、足がはやいんだよ

うでのチカラだって、強いんだ



近所のトムくんが いいました

「カンガルーくん かっこいい」


「えっへん ぼくはこの草原でいちばん強い カンガルーだよ

ボクシングで 一度も負けたことがないんだ」


「一度も負けたことがないの?

すごいや カンガルーくんはボクシングのチャンピオンだね」

トムくんは しきりに、かんしんします


<トムくん>

トムくんは家にかえって、お父さんにいいました


「ぼくの友だちは、すごいんだ

ボクシングのチャンピオン なんだって」


お父さんは トムくんに ききました

ボクシングが強い友だちは、ベルトをしていたかい?


トムくんは、こたえます

カンガルーくんは、ベルトをしていないよ

でも、ボクシングで いちども負けたことがないんだって


お父さんは、わらいます

息子よ おまえはボクシングというものが分かっていない

チャンピオンは、まちの大会でゆうしょうして与えられる しょうごうだ

リングの上で みんなの前で戦い、ベルトを手にしたものだけが本物のチャンピオンだ

ケンカに強いだけでは、チャンピオンとはよべないよ




つぎのひ トムくんはカンガルーくんにあって いいました


「カンガルーくん きみは、ボクシングというものが分かっていない

チャンピオンになるは、まちの大会に出て みんなの前で勝たないといけない

ベルトをしたものだけが、本物のチャンピオンだよ

ケンカに強いだけじゃ、チャンピオンじゃないよ」


カンガルーくんが、おこります


「ボクシングでいちばん強いのは、ぼくだよ

まちにいる ベルトをしたチャンピオンなんて ぼくのパンチでイチコロさ

ぼくは、本物のチャンピオンなんだから」



<まちのボクシング大会>

カンガルーくんは、まちにやって来ました

ベルトをしたチャンピオンに あうためです

 

まちのボクシング大会が、はじめてのカンガルーくん

たくさんのかんきゃくに びっくりして、ドキドキです


ベルトをしたチャンピオンが リングに上がりました


かんきゃくは、いっせいに歓声を上げます

赤コーナーでグローブを高く上げるチャンピオンは、じしんたっぷり 強そうです

青コーナーには、ちょうせんしゃが立ちました こちらも強そう


カ~ン

しあい かいしのゴングがなりました


にらみあいが続きます

手に汗にぎる しんけん勝負です


ちょうせんしゃのアッパーをかわし、チャンピオンのストレートがきまります

パンチを受けたちょうせんしゃは、たおれて おきあがれません




しあいに勝ったチャンピオンは キラキラのベルトを たかくかかげます

かんきゃくは 大よろこび

カンガルーくんも だいこうふん


「きゃ〜、チャンピオン わたしのチャンピオンが 勝った」


すごい美人がかけよって チャンピオンにお祝いのキスをしました


「いいな〜 ぼくも、みんなにほめられたい 

 あんな美人に、キスされたい」


カンガルーくんは チャンピオンが うらやましくてしかたありません

「ベルトをしたチャンピオンより ぼくの方が、ぜったいに強いのに」




カンガルーくんは、ボクシングの試合にでることにしました

にんげんでない ちょうせんしゃが大会に出るのは、はじめてです


トムくんとトムくんのお父さんが カンガルーくんをおうえんしに、来てくれましたよ

「トムくん、みててね

ぼくがいちばん強いって、しょうめいしてみせるからね」



カ~ン

しあいのゴングが なりました


相手のせんしゅは、グローブをかまえます

なれないグローブに、カンガルーくんの手は なじみません


でも、そこは草原で 負けしらずのカンガルーくん 

よゆう たっぷりです

あいてのせんしゅをチラリと見下ろすと あっという間にボディーにパンチをきめました


レフリーは、ふっとばされた あいてのカウントを取ります

「3.2.1  おめでとう 勝ったのは、カンガルーくん!」

さすがは、カンガルーくん

これで 本物の ボクシングチャンピオンだね



<カンガルーくんの手術>

ところが 赤コーナーのコーチは、こうぎの声をあげました

「カンガルーくんは、にんげんじゃない」

「でも、カンガルーがボクシング大会に出ちゃいけないって どこにも書いてありませんよ」


「しっぽを つかっていたから カンガルーくんはズルしている」


レフリーとジャッジはリングの上で なにやらそうだん を はじめました


「カンガルーくんは しっぽをつかったから、はんそくです

 それに グローブから爪も とび出ています」


「しあいは こうへいなルールのもと おこなわないとね」

カンガルーくんの勝利は なしになりました



「そんなのひどいや いちばん強いのは、このぼくなのに」

カンガルーくんは、くやしくて くやしくて


でも、カンガルーくんは あきらめませんでしたよ


「しっぽがなくても ぼくがチャンピオンだって しょうめいしてみせる」

カンガルーくんは、お医者さんのところに行き しっぽを切ってもらうことにしました



しっぽを切る手術をうける、カンガルーくん 

とってもドキドキしています


「先生 手術はいたくないですか?」

「さいしんの ますい薬を つかいます

 ちっとも、いたくないですよ」


「先生 しっぽがなくても 立てますか?」

「にんげんも2本足で立っているから カンガルーくんだって、きっとできます」



手術はだいせいこう 

いたみも 少ししか ありません


しっぽの支えがなくなったカンガルーくん 立ちあがるとフラフラしました


「2本足で歩く れんしゅうを、しないとな」


トムくんのお父さんが、歩きとボクシングのトレーナーをしょうかいします

カンガルーくんの リハビリとトレーニングが はじまりました



<ハートの耳の カンガルーちゃん>

リハビリとトレーニングをつづける カンガルーくん

今日も日が暮れるまで、一生けんめい がんばりました


2本足で夜のまちを歩くと まるで にんげんになった気分です


草原にはなかった まちの明かりが カンガルーくんを店へと さそいます

カンガルーくんは ほの明るい店のソファーにすわり ホット一息つきました



スープを持ってきた てんいんを見て カンガルーくんは びっくりします

「あれ、君ってカンガルー? でも 耳がとっても短いよ」


てんいんは わらって こたえます

「あら、バレちゃった 

わたしは カンガルーちゃん 手術して耳を切ったのよ」



カンガルーちゃんはカンガルーくんに みのうえ話をしました


草原で生まれた わたしは、まちの人を好きになったの 

その人も わたしのことが、大好きになったわ


カンガルーちゃんは、まちの人に いいます

「わたしには にんげんにはない 袋がついてるわ」

「袋があっても 君は ステキだよ」


「わたしには にんげんにはない しっぽがあるわ」

「しっぽがついていても 君は とってもみりょくてき」


「わたしの耳は とても大きいわ」

「ああ、大きな耳はだけはダメだ 

 かおに大きな耳がついていたら 君のことは 愛せない」


カンガルーちゃんは 手術して耳をみじかく切りました

大好きな人といっしょに まちにうつり住み この店のてんいんになりました



「みて わたしの耳は ハートの形よ

 あの人が大好きだから ハートの形に切ったの」


しあわせそうにわらう カンガルーちゃん 

ハートの耳が とってもかわいくみえました



<カンガルーくんは ボクシングチャンピオン>

きょうは ボクシング大会です

トレーニングをしっかりしたカンガルーくんは 気あいじゅうぶん

グローブにもすっかり なれました


赤コーナーでは チャンピオンが、ふてきなえみをうかべます

青コーナーの カンガルーくんも まけていません

赤い大きな むないたを これみよがしに見せつけます


カ~ン

しあいのゴングが なりました


さきに こうげきを仕掛けたのは カンガルーくん

左 ジャブ  右 フック

がんめんへの 強力なパンチ


がんばれ! カンガルーくん

かつんだ! カンガルーくん


カンガルーくんの パンチが きまった〜!!

パンチされたチャンピオンが、キャンパスに しずみます



かんきゃくは 拍手かっさいで大さわぎ

「すごい新人が、あらわれたぞ」

みんなの注目が カンガルーくんに あつまります

「あたらしい チャンピオンの たんじょうだ」


美人が リングにかけ上がります

「チャンピオン ああ、わたしのチャンピオン」



ところが、美人がだきしめたのは カンガルーくんでは ありません

マットにたおれた もとチャンピオンでした


「ちょっと、きみ チャンピオンは このぼくだけど」

カンガルーくんは、美人に もんくをいいます

「君がだきついたのは もとチャンピオンだよ

 この ぼくが たおしたんだ

 君がキスするのは しあいに勝ったこのぼくさ」


美人が おこって いいかえします

「うるさいわね わたしのチャンピオンは、この人よ

しっぽのない へんなカンガルーなんて、だれが愛するものですか」




カンガルーくんは チャンピオンベルトを草原にもってかえりました

なかまに ベルトを みせびらかして 大会で勝ったことを じまんします

「みんな見て これがチャンピオンベルトだよ

 ぼくが本物のチャンピオンである あかしだよ」


しかし、なかまのカンガルーは ベルト に きょうみが ありません

「ピカピカひかって、まぶしいだけ

 ベルトをもって、あっちへいって」

カンガルーくんたちは なかまと大げんか に なりました


なんと いうことでしょう

カンガルーくんが はじめてケンカに負けました

パンチされて カンガルーくんは、よろめきます

カンガルーに とって しっぽは

 バランスをとるのに とても だいじなものなのです



カンガルーくんは 落ちこみました

ピカピカのベルトをかかえて ポタポタ涙をながします


カンガルーくんは お月さまに ねがいごとをしました

「お月さま どうか おねがいです

 ぼくのしっぽを かえしてください」

お月さまが 雲にかくれてみえない日も まいにち 空にむかって祈ります



ある日、ハートの耳のカンガルーちゃんが やってきました

「泣かないで、カンガルーくん 涙は、もうたくさんよ」


「どうして 君が ここにいるの?」

カンガルーくんは カンガルーちゃんに たずねます


「わたし あの人とわかれたの」

カンガルーちゃんも 泣いています


「あの人に 好かれるために わたしは耳を切ったのに」


カンガルーくんとカンガルーちゃんは いっしょになって 泣きました

「君が、ぼくのために 涙をながすから

 ぼくも、君のために 泣いているの」



カンガルーくんとカンガルーちゃんは いっしょにくらすことに しました


カンガルーくんが、ふと 不安そうな かおをします

「しっぽのある僕が、耳のある君に出会っていたら

 君は まだ僕のことが好き?」


カンガルーちゃんは笑います。

「耳がなくても私のことを好きになってくれたあなたに、

 たまたま しっぽ がなかっただけよ」


カンガルーちゃんは カンガルーくんを だきしめます

「しっぽ が あっても なくても

そのままのあなたが、大好きよ」


へやのすみでは、チャンピオンベルトが光っていました

「ベルトは、わが家の かほうに しましょうね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カンガルーくんはボクシング王者 三木詩絵 @kanae3g

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ