第1話 零れ落ちていくように

 ――消えていく。

 無くなる。 

 思い出も、約束も。

 いつも全霊を籠めて動かしていた手足が冷たくなっていく。

 友を斬る為に、短くない生涯をかけて編み出した筈の一太刀すらも――全て。

 すべてが、きえてゆく。

 心臓に穿たれた穴から、生きる為に大切な物の全てが零れていった。

(ああ……)

 文字通り胸を刺す痛みの中だったが、心の内は「やっと終われた」「やり遂げられた」という充実感で満たされていた。

 続けても意味が無いと感じて、自発的に呼吸を止める。

(これで、よかった)

 満点の星を仰ぎながら、緩んだ指先が刀と鞘を手放した。

 こんなに清々しい気持ちで眠るのは、久しぶりだった。

 西暦にして2019年の4月29日。

 刃鳴斬哉はなりきりや という青年は、その生涯を閉じた。

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