第2話

 ママに呆れられた。


 そろそろ傘を新しいのにしましょう、ってママが言うから、コンビニのでいいよ、いったのに。気づいたら駅ビルに連れてこられてた。クラスの中でもおしゃれな子たちは時々来ているみたいだけど、どうかな。でも来てみて考えが変わった。なんか、きれい。キラキラして。服とかバックとは興味ないけど、ショーウィンドウに飾られているふわふわのウサギや変わった色の花、オブジェだけでも見ていて楽しい。


 お財布やポーチの置かれた棚から、きらきらと白いふわふわの綿が下がる。雪?それにしては…上を見てちょっとびっくりした。おおきなクモのバルーン。そんなの見ていないで、ほら、どれがいい?って聞かれたけど、ママが持っているのはすごくすごく、なんていうか年寄りくさい。チェック模様は定番なのに、とママが言う。分かるけど。でも、地味。


 わたしが欲しいのはこういうのじゃなくて。地上7階のお店の窓は大きくて、下を歩く人の姿が小さく見える。どんなおしゃれな服を着ても、雨は全部を灰色にする。そのときそこだけパッと花が咲いたように、明るい色が視界を横切った。きれいな黄色。雨に流されないビビットな。


「ママ、あれが欲しい」


 思わず口に出してしまったわたしの視線の先を見て、ママは困った顔をした。

「あれは小学校の1年生しか持てないの。ほら、交通安全、って書いてある」


「ぜったい、あれ」

ママはわたしがこう言いだしたら聞かないことを知っている。


「もう、この子は」

 わたしとママは、どちらが先に折れるかの勝負に入った。膠着状態。お店の人も困ってる。


「梨華」


 急にお店の入り口からわたしを呼ぶ声。

「あ、芽衣。どうしたの」

「傘買いに来たの。梨華も?」

「うん」


 昨日会ったばかりだからいつもどおりの会話。だけどママは芽衣のママとあらあら、だとか、お久しぶり、とか、いつもお世話に、とか、ひっきりなしに言葉を交わしている。同じことをお互いに繰り返しているだけ見たい。さっきからおいてけぼりの店員さん、ごめんなさい。


 ぽんぽん、と無重力に明るい音がして、館内放送が流れてきた。


「当館にご来館いただきありがとうございます。ただいま特設売り場でレインフェアを開催しております。傘やレインコートなど、雨の日が楽しくなる商品を取り揃えておりますので、是非、ご来場ください」


 なんてタイムリー。行く先迷子な親子二組の目的地が一致した。

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