ハロウィンのあめ

葛西 秋

第1話

 お母さんに呆れられた。


 ビニール傘じゃない、ちゃんとした傘を買いましょう、といわれて、駅の近くの雑貨屋に連れてかれた。同じ組の女の子たちがよく行くお店。花や小鳥やハリネズミなんかのかわいい小物がたくさんある店。私はあまり行かない。でもハリネズミは気になってる。だから大人しくついて行ったのに。


 この中から選びなさい、とお母さんが指さしたラックにならんだ傘はどれもパステルカラー。白いレースのプリントや水玉模様で、これは私の好みじゃない。せめてネイビー。ワンポイントでハリネズミ。それが私の許容範囲。


 あらこれ可愛いわね、とお母さんが広げてクルクル回しているのはアイボリーにピンクと水色のお花のブーケ。反応の薄い私に、水色だって可愛いわ、と今度は水色のボーダーに白いトイプードルが跳ねまわっている傘を差しだした。


 こういうのじゃなくて。私はお店の外を見る。来るときに降っていた雨はまだ止まないで、歩道に留まったバスから制服の高校生が降りてきた。あの制服、すごく好き。灰色のジャケットにネイビーチェックのプリーツスカート。かっちりローファーに紺のハイソックス。あそこの高校に行きたいな、と小学生の私は思う。

 

 そして、あ、と思わず声に出した。


 その高校生が広げた傘がまさに私の欲しい傘で、ネイビーの地に縁だけ白いライン、校章のエンブレムが白一色でプリントされている。


「お母さん、あれが欲しい」


 思わず口に出してしまった私の視線の先を見て、お母さんは反応に困る顔をした。

「あれはあの高校の生徒しか持てないの」

「あれじゃなかったら要らない」


 お母さんは私がこう言いだしたら聞かないことを知っている。

「違うお店も見て見ましょう」

 さすが私のお母さん、我が子のあつかいを心得ている。


 駅の上のビルには大人向けのきれいなお店がたくさんある。

「芽衣にはちょっと大人っぽいかもしれないけれど、ここならあるかもしれないわね」

 そういうお母さんはすごく楽しそう。きっと来たかったのは私じゃなくてお母さんなんだ。


 お母さんが私を連れているのか、私がお母さんを連れているのか、エスカレーターを二階分ぐらい上がったところで分からなくなった。


 そうしていくつめかのエスカレーターで、横の透明なアクリル板がきらきら光っている気がして振り向いた。お母さんが、このお店はちょっと高いから、とさっき通り過ぎたその中で、梨華がやっぱり梨華のお母さんと傘を見ていた。

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