第91話
教室に入った瞬間、綾乃の前に人の新しいクラスメイトの大群が押し寄せてきた。まぁ、でもこうなることはわかっていた。
綾乃は大群に連れてかれて、置いてかれた俺は、ポツンと一人になった。
「いやいやぁ~、存在感の薄い彼氏は大変ですなぁ~」
聞き覚えのある声が、からかってくる。
「なんだ三村か、一緒のクラスだったんだな」
「ひ、酷いな……俺とお前の中だろ」
「僕も三村がいるって気づいたのは教室の入ってからだよ」
「彼女のことしか頭にないお前ら二人とも嫌いっ」
そう言って、悔しそうにしている。まるでアニメでハンカチを噛んで悔しさを表すアレだ。
「本当に、いるよな~、彼女と一緒だったらどこでもいい的な」
「悪かったよ、お前も蒼汰も大切だよ」
「いまさら言ったって、遅いんだからねっ」
正直にめんどくさいと思ってしまったことは三村には言わないことにする。
でも、三村が言ったように、綾乃と同じクラスになれたと知ったあとは、他に誰がいるのか知り合いは他にいるのかなんて、見ていなかった。
見渡す限り、白坂とは違うクラスになったらしい。
意外と安心なんてしないものだった。少し前までの俺だったら絶対にホッとしていたはずなのに。
「つ、つかれた……」
綾乃が少し元気がない状態で帰ってきた。コミュ力おばけの綾乃でさえこうなるとは……一体どんな感じだったのだか、俺がされてたら、生きて帰れたのだろうか。
「お疲れ様」
「大変だった~……けどっ雄星君と一緒のクラスってだけで、疲れが吹き飛ぶよっ!」
「そんなの俺だって、疲れがなくなる」
「雄星君はゲームのやりすぎですぅ~」
俺が「あっそ」とプイッとそっぽ向くと、三村と蒼汰だけでなくクラスのみんなが俺と綾乃の方を見ていた。
俺と綾乃のやり取りを見てコーヒーを買いに行くものもいれば、俺と綾乃が付き合ってることを再認識して崩れ落ちる奴までいた。
「本当に大丈夫か、このクラス……」
俺がそう言うと三村がジーッと俺のことを見てくる。
「お前もすこしは我慢しろよ」
「なにをだよ」
「無自覚って怖いなぁ~、イチャイチャをやめろ」
俺がそう言われて、いつも通りのやりとりだったのだが……
「そんなにしてたか?」
「はぁーやだやだ」
綾乃の方を見ると、綾乃も苦笑いしながら頭を傾げていた。綾乃もこれが普通だと思っているから、変だとは思わなかった。
「じゃあ、学校では本当に気を付けるか」
「そ、そうだねっ……?」
しかし、綾乃はなぜか納得していない様子だった。
「せっかく、一緒のクラスになれたのに……」
聞き間違いじゃない。しっかりと言っているのが聞こえた。
今すぐにでも、綾乃を抱きしめてやりたかった。
抱きしめるのはダメでも、頭を撫でるくらいなら……そうやって、右手を出そうとしていた時、三村の目が俺の右手を見逃してはくれなかった。
「新学期早々、敵を増やしたいのかな?」
「生憎だが、別に敵が増えても綾乃が味方だからな」
俺が自慢気にそう言うと、三村は悔しそうに「クソッ!!」と言った。
そして三村は続けて俺に言った。
「俺だって、お前の味方だよ!!」
「お前本当に今日どうしたんだよ……」
俺は苦笑いしながら蒼汰を見ると、お手上げらしい。すでに呆れた様子で三村を見ていた。
「僕も言われたから、今日一日中これだと思うからウザいよ」
「ハッキリ言うなぁぁぁぁ!」
教室に三村の声が響き渡った。
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