第90話

 学校に着いたが、やはりいろんな人から視線を感じる。一緒に登校しているからというのもあるが、ここ最近で綾乃がどんどんと可愛くなっている気がする。


「ねっ! ねっ! 雄星君は見える?」


 綾乃がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、クラス替えの表を見ようと頑張っている。綾乃の身長は低い方ではない、むしろ高い方だと思う。


 しかし、早く知りたい気持ちが勝っている綾乃を見て、俺は思わず笑ってしまった。


「いま、バカにしたでしょ~」

「してないしてない」

「へ、変かな? 待てばわかるんだけどね……どうしても早く知りたくて」

「俺も落ち着いた様子を出しているが実は緊張してるんだぞ?」

「そうなの?」


 綺麗で大きな瞳で綾乃は俺のことを首を傾げながら見てくる。


「あぁ、だからあんまり喋らなかったってのはある」

「なんだ、雄星君も知りたかったんだっ」

「だから、変なんかじゃないぞ」

「うん! ――――ところで見える?」

「いや、見えん」


 綾乃があははと苦笑いしている。


「これは待つしかないかな?」

「待つの嫌いなんだよな」

「まぁまぁ、そう言わないでよっ」


 そう言って綾乃は俺の肩にポスンと頭を置いてくる。

 俺は急でびっくりしてしまった。それにここは家じゃなくて学校なのに


「綾乃さん? ここは学校ですよ?」

「すこし疲れちゃった~」

「あれだけジャンプしてたらな、ってそういう問題じゃない」

「あとすこしだけ」


 そう言って可愛い駄々をこねてくる。頭を撫でたい気持ちをグッとこらえて、俺はジッとただ置物になることだけを考えていた。


 まわりからも「お熱いねぇ」という声が聞こえてくる。まぁ、ところどころ物騒な言葉も吐かれるんだが、そんなときは綾乃がニコッと笑うだけで聞こえなくなる。


「充電完了したか?」

「すこしね」

「あっ、別のクラスだ……」


 俺がいじわるでそう言うと、目を瞑っていた、綾乃はパッと目を開いた。


「うそっ!?」

「うん、うそ」


 俺がけらけらと笑って、綾乃が頬を膨らます。これがいつものパターンなんだが、今日はいつもと反応が違った。


 プルプルと震えながら、俺の腕をつかんできた。


「き、今日はダメっ、そういうの……」

「ちょっとしたジョークだったんだけど」

「ダメです。いいね? 雄星君はだもんね?」


 綾乃のいい子には圧がかかっていた。逆らったら……というよりも、逆らう気も起きなかった。

 俺は小さく頷きながら「はい」と答えた。


 そしてようやく人だかりが少なくなり、ハッキリと見える位置に来た。


 黒田……あった、三年二組か……。白河は……三年二組。


「「あった! 三年二組!」」


 そして一緒のことを大きな声で言った。綾乃はふにゃりと笑って、その場にいる全員が見惚れていた。

 そりゃそうだ、俺でさえ慣れていないんだから。


「行こっ! 一緒の教室っ」

「お、おいっ。転んじゃうぞ」

「今日はいいもんっ」


 そう言って、俺の腕を引っ張りながら、教室へ向かう。

 その途中でさえ、綾乃はずっと笑顔だった。この笑顔は自分だけが独り占めしたいと本当によく思う。


 同じクラスになれた、ここ最近で一番うれしいことだった。


「ありがとな、大吉」

「えっ~? なにか言った~」


 えへへと、頬がとろけたような笑い方をしている。完全に浮かれているが。綾乃の滅多めったに見れない一面でもあった。

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