第89話

 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 俺はそのインターホンの音を聞いてすぐに、自分の部屋からどたどたと下に下がり、玄関に向かう。今日は少し寝坊してしまったので、まだパジャマ姿だし、髪の毛も寝癖が付いている。


 しかし、居留守を使うのも罪悪感がするし、俺は仕方なく、玄関の扉を開けた。


「あれっ?雄星君その恰好……」

「え……いや、綾乃こそなんで制服なんだよ」


 玄関を開けたら立っていたのは綾乃だったのだが、服装が制服だった。俺の気の抜けた、身なりとは、真逆のピシッとした身なりだ。


「なんでって……今日から学校だよ?今日から3年生だよ?」

「え……」


 そんなバカな話があるわけないだろう。そう思っていたのだが、そういえば担任が始業式が一日早くなったとか、なってないとか……


「連絡したのに、返信ないから、心配してきてみたら……」


 そう言って、綾乃は呆れた様子で俺の方を見つめてくる。俺は恥ずかしかったので目を合わせないようにしていると綾乃が


「早く準備しないと遅れるよ!」


 さっ早く早く。と俺をせかしてくる。


 クソッ新学期などこういう時に限ってよくないことが起こってしまう。


「ふふっ。仕方ないよ人間失敗しない人はいないもん」


 切り替えていこっ!という感じで片目を閉じてウインクをしてくる。


 たしかに人間だれしも完璧とというわけではない。それに、今日俺が失敗しなかったら、綾乃とこうしていられる時間もなかったんだしな。


 俺は、ソファに座りながら、はみがきをして綾乃は俺の髪の毛をドライヤーで乾かしてくれている。たまに、綾乃細い指が、首に当たるとくすぐったい。


「よしっ!準備完了!」

「なに、ちゃんとできました感出してるの。雄星君のせいで遅刻ギリギリだよ?」

「わ、悪いと思っています」


 しっかりと戸締りをして、家に鍵をかけて俺たちは学校に向かった。


 いつもどうりの道だが、最近遅刻ギリギリの時間帯に家を出ていなかったので少し新鮮な感じがする。

 しかし、綾乃はこの時間にはもう学校についている時間帯なのに、やけに落ち着いている。


「やけに落ち着いてるな」

「焦ってもしょうがないからねーそれに」

「それに?」

「雄星君と学校に行くのは楽しいからかな?」


 そう言ってあはは、と笑っている。俺はニッコリ笑っている綾乃の頭を荒くわしゃわしゃと撫でた。


 ただの照れ隠しだった。


「なっ…なにっ!?」

「なんでもない」


 俺がそう答えると、全然納得していない表情だった。


 つい先日まで春休みということが信じられない。一体俺は春休みを何に使っていたんだと小学生の時から考えが変わらない。

 楽しいときは一瞬。簡単に言うとこういうことだ。


「今日から3年生ってのはなんだか実感がわかないな」

「最高学年だもんね~」

「「同じクラスだといいな」」


 俺と綾乃は同じ事を口にした。実際綾乃と同じクラスになるには今年が最後のチャンスだし、来年にはこの学校を卒業している予定なので、最後くらいは綾乃と同じクラスがいいと思っていた。


 綾乃は俺の方を見ながらニヤニヤと笑っている。


「な、なんだよ……」

「いやぁ~雄星君と考えが一緒とは思わなかったよ~」

「そうか?」

「だって考えてても言わなそうだし」

「たしかに」


 俺はそう言って苦笑いする。


「同じクラスだといいな」

「だねぇ~大吉の私がいるから大丈夫!!」

「大凶の俺がいるけど本当に大丈夫か?」

「だ……大丈夫だよ……きっと」


 不安になったのか後半声に自信がなくなった気がした。


 俺たちは今日、高校3年生になった。



あとがき


バレンタインとかの話は番外編で書こうかなと思っています。

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