第87話
いつの間にか、あんなに長かった列の一番前にいた。もちろん神様にお願いすることは決まっている。
来年もこうやって綾乃とここに来れますようにと。俺は神様にお願いをした。
俺が目を開けた時には、まだ綾乃は隣で両手を合わせていた。目が勝手に綾乃の方に吸い付いていく。
すると、綾乃の目がパチッと開く。すると俺の方を見て、少し眉を下げる。
「あっ……ごめん、長かった?」
「いや、大丈夫だぞ」
「ほんと?それにしてはジロジロ見られてたような」
「綺麗だったからな…つい」
すると綾乃は少しだけ頬を赤くしていた。
「おみくじ引こうよ!」
「え……まぁいいけど」
「へへっ、じゃあ決まり!」
俺たちがおみくじを買いに行こうとしたとき、また白坂が近づいてきた。
「あっ!白河さんたちもおみくじ買いに行くの?」
「え?あぁ、うん……」
「じゃあさ……」
あ………まずいこの感じ、俺は嫌な予感がした。さっきと同じだ。やられる前にやる精神でいかないと、白坂とかいう王子キャラ満開の陽キャリーダーの土俵になってしまう。
「白坂……話があるんだけど」
俺がそう言うと白坂はもちろん、その友達、綾乃まで驚いていた。白坂は理解したのか、一瞬顔を曇らせたが、すぐにいつもの陽キャ笑顔を周りに振りまく。
俺はまぶしいと思いながら目をパチパチさせた。
「わかった。ここじゃ、はなしにくい話なんだろう?」
「あぁ、理解が早くて助かるよ」
「わかるさ、君のその真剣な表情は……」
そう言って俺らは、人がいない、木の陰の方に二人で歩いた。
「ゆ、雄星くんっ……」
「綾乃悪い、すぐ終わるから、待っててくれないか?」
「………わかった」
綾乃には悪いことをしたとこの時点で……いや、もっと前から感じている。
「ここらへんでよくないか?」
「あぁ、そうだな」
そう言って俺らは、みんなから少し離れたところに来た。ここなら誰にも聞かれないだろう。
「大丈夫かな……あいつら付いてきたりしてたら」
「それは大丈夫だ、三村がいるから、あいつはこういう時は邪魔しないやつだから」
「邪魔しかされていない気がするけど……」
白坂がクスッと小さく笑う。
「単刀直入に聞くけど諦める気はないのか?」
「ないよ」
「おおっ……即答」
「そんなことが聞きたかったのかい?」
「いや?別に聞きたい話じゃなかったな」
俺の言葉を聞いて白坂は、首をかしげている。
「ただ、諦めてくれたらいいのになって思ってるだけだぞ?綾乃は俺の彼女だ」
「そうだね……でもね、まだ決まったわけじゃない」
「はぁっ?」
「すこしでも隙を見せたら、奪い取る……それとも譲ってくれるのかい?」
俺はその言葉を聞いて、なにを冗談を言っているんだろうか?と白坂の方を見ると、白坂の目は本気だった。
こいつが本気なんだったら俺も言うことがある。
「悪いな、譲らねえし、奪われる気もねぇから」
「あっそ、言うじゃん」
「俺はお前ほどやさしくないからな」
「僕だって遠慮はしない。誰かの彼女だからって僕が好きな人と結ばれないと決めつけるのは早いと思うんだ」
「じゃあ、俺たちはライバルというわけだ……」
「あぁ、そうだね」
そう言って俺と白坂は綾乃たちを待たせた場所に戻った。
「まずは3年になる前に距離を縮めるよ」
「なっ……俺だって綾乃と……」
「遅いぞ~なに話してたんだよ~!」
白坂の友達が、白坂に問い詰めてるしかし白坂は笑って誤魔化している。やばい…俺も問い詰められると思って身構えていると、聞いてくる様子はなく、綾乃はそのまま俺の横を通り過ぎて行った。
怒っているのかと思い、俺は綾乃の機嫌をうかがうようにそっと綾乃の顔を覗き込んだ。
綾乃の顔は、とても真っ赤だった。耳まで真っ赤に染まっていた。
「あ、綾乃さん……?」
すると綾乃は、チラッと横目で俺の方を見て口をもごもごさせながら
「奪われないようにちゃんと、見張っててくださいね?」
俺はその言葉を綾乃から聞いたときすべて聞かれていたと理解した。なぜ綾乃だけ聞いていたんだろうと疑問にも思ったがそれよりも恥ずかしくて、急激に顔が熱くなるのが分かった。俺は自分の手で顔を隠しながら
「はい……」
と答えた。それを聞いた綾乃が赤く染めた頬を隠さずにニッコリと笑った。
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