第85話

「……くん、……雄星くんっ!」


 俺はその声にびっくりして飛び起きた。周りを見渡すと自分の部屋で安心したと同時にいつもとは違う光景がそこにはあった。

 綾乃が俺のベッドの上で女の子座りしていたのだ。


 俺は綾乃を見て昨日の夜の出来事が、蘇ってくる。思い出せば出すほどこの状況はまずい。どう考えても、俺が連れ込んだようにしか思えない。


「雄星くん……」

「待ってくれ!!一回話を聞いてくれ」


 俺は昨日あった出来事をすべて綾乃に話した。すると綾乃は自分のしたことを覚えてない様子だったが、その事実があった、ということで恥ずかしくなったようで、近くにあったクッションを抱きかかえて顔を埋めている。


「ごめんね?てっきり私、雄星君にその……へんなことされたものだと」

「へんなこと?」


 俺がそう言って首をかしげると、綾乃は顔を赤くしていた。


「だから……そ、その」


 そこで俺はやっと気が付いたまだ頭が冴えていなかったからか理解するのに時間がかかったが、綾乃が顔を赤くしていることと、言いづらそうにしているのを見て理解した。


 このまま放って見ているのも面白そうだったが、さすがにかわいそうだと感じて俺は綾乃に言った。


「大丈夫だ!綾乃が思っているような、いかがわしいことなんてしてないから!」

「いかっ……別に思ってないから!」

「え?でも……」

「うるさい!…………ばかっ」


 綾乃はそう言うと抱きかかえていたクッションを俺に向かって投げてきた。俺の顔に見事命中。


「先に降りてるからね!」


 そう言って俺の部屋から出て行ってしまった。やっぱり勝手に俺の部屋で寝かせたことを怒っているのだろうか。

 しかしあの心地よさの誘惑には勝てない気がする……


「お、おはよう」

「あら?早いのね」

「ま、まぁ……たまたまね」

「綾乃ちゃんなら今お姉ちゃんの部屋で着替えてるわよ」

「あ、そう」


 どうしようか……悩んでいると、夏乃が俺の隣に座ってきた。


「夏乃はどこで寝たんだ?」

「黒田のまま」

「あー母さんの部屋か……」


 俺はそれを聞いて、安心してしまった。いつもは頼りになる姉なのだが、お酒を飲むと手に負えなくなるので母さんと一緒に寝たんだったら安心だ。


「ところであんた、早く支度しなさいよ?」

「へ?したく……?」

「初詣行くんでしょ?まだ寝ぼけてるの?」

「そうでした……」


 俺は、まず顔を洗い髪の毛をドライヤーで乾かして、ワックスで髪の毛を整えた。ここまでくればあとは服を決めるだけなので俺はゆっくりとリビングでだらだらと過ごしていた。


「黒田、いつもと違う」


 夏乃は興味があるのか俺の髪の毛を触ってくる。ワックスで固めた部分と自分の髪の毛を比較している。


「夏乃お前も初詣行くんだろ?」

「うん!」

「じゃあ、お姉ちゃんに怒られないように早く準備しような」

「わかった~」


 そう言って夏乃はたったったと機嫌がいいのか軽い足取りで洗面所に向かっていった。俺も心配なので夏乃の後をついていく。


「黒田~髪の毛やって~」


 そう言って俺は夏乃の髪の毛をドライヤーで乾かしていく。後ろ姿だけ見れば小さくなった綾乃そのものだった。

 夏乃の髪の毛を乾かし終わったあと、ドライヤーの電源を切り、コンセントを抜くと耳元で大きな声で呼ばれた。


「お~い!」

「うわぁ!?びっくりし……た」


 そこには姿の綾乃が立っていた。黒髪に着物似合わない合わないわけがない。

 着物を着ているせいか、いつもより大人っぽさが強く出ている。


「さっきから呼んでるのに……」


 綾乃はわかりやすく頬をぷくっと膨らませている。


「ドライヤーの音で聞こえなかったんだよごめんな」

「あはは!怒ってないよ、夏乃の髪の毛乾かしてくれてありがとう」

「いや、それはいいんだけど」

「それより、なんか言うことない?」

「すごく似合ってま……」

「お姉ちゃんすっごくきれい!!!」


 俺の綾乃の着物姿を褒めた言葉は夏乃の元気いっぱいの声にかき消された。


「それ俺のセリフ……」

「ふふっ、とられちゃったね」

「似合ってるよ」

「………あはっ、なんか改めて言われると照れるなぁ。でも喜んでもらえてよかった!」


 少しだけ頬を赤くしていたが綾乃は満面の笑みを浮かべていた。さっきのぷりぷりと怒ったような感じではないのは分かった。


「あ、あと今朝のことだけど」

「は、はい!」

「別に怒ってないよ?なんなら私が悪いし、だから気にしないで?」

「助かります……」


 すると綾乃が近づいてきて俺の隣に来た。


「雄星君にだったらされてもいいかなって思ってるし」


 綾乃は耳元でそうささやいた。俺は最初何を言っているのかわからなかった。

 理解した途端、俺は顔が熱くなるのが分かった。


「なにをだよ!」

「さぁ~なんでしょう?」


 綾乃はふふふと笑うだけで、答えを言ってはくれなかった。やっぱりまだ今朝のこと根に持ってるんじゃないかと疑ってしまった。







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