第83話
洗面所からブフォーというドライヤーの音が聞こえてくる。雄星は何度か考えたことがある。
女性のあの長い髪の毛はいったいどれくらいの時間をかけて乾かすのだろうかと…
そう考えたら、見てみたいと思ってしまうのが人間というものだろう。別に覗きというわけではない。
俺はそっと洗面所の扉を開けた。今なら扉を開けてもドライヤーの音で小さい音なら聞こえない。
「………綺麗だ」
俺は扉を開けてその髪の毛を見た瞬間言葉が漏れた。艶があり、飲み込まれてしまいそうなくらいに真っ黒できれいな髪の毛にただただ、ジッと見惚れてしまっていた。
髪の毛を持ち上げながら乾かすその姿はまるでヴァイオリニストのようだった。
すると綾乃が髪の毛を乾かし終わったのか、ドライヤーの電源を切った。当然俺の存在に気付いた。というかやっと俺に気づいた。
「あ、綾乃!こっ、これはその……興味があってだな……」
「何に興味があったの?」
綾乃は俺に怒ったりはせず、何に興味があったのか聞いてきた。
「えっと……か、髪の毛に」
「髪の毛?」
「う、うん……どんな風に乾かしてるのかなと」
「ふ~ん」
「ほ、本当だ!決してやましいことは!」
「考えてたら怒ってるから」
あはは!と笑いながら俺の必死さを面白がっている。そんな彼女は今日もかわいい。そして風呂上がりだからだろう、とてもいい匂いがする。
「私の髪の毛に興味あるんだ~」
「な、なんだよ」
綾乃はにやにやしながら自分の髪の毛を触っている。すると俺のほうに顔を近づけてきた。
「雄星君……触ってみる?髪の毛」
「へ?」
「触りたくない?」
「いやっ、そうじゃなくて!髪の毛は女の子の命って言われてるし、それを男の俺が触ってもいいものかと……」
髪は女の命そんなフレーズを何回も聞いてきてしまったら、男の俺が触るのは少し申し訳ないというか、本当にいいのだろうかという気持ちになってしまう。
綾乃はそんな俺を見て、なぜか少しだけふくれていた。
「たしかに、髪は女の命それは間違いない」
俺が黙って聞いていると、綾乃は続けて言う。
「でもね、好きな人に髪の毛を触られるのは嫌じゃないの!」
綾乃からなぜか告白されるような展開になってしまった。しかし、嫌な気持ちなんてなく、むしろさっきまでのヘタレ精神が吹っ飛んだような気がした。
「やっぱり、敵わないなぁ」
俺は小さく、そう呟いた。
「って!なんで私が告白したみたいになってるの~」
そう言って綾乃は顔を赤くしている。俺はそんな顔を赤くしている彼女の黒くて綺麗な髪の毛を触った。
指と指の間からするすると抜け落ちてしまいそうなほど繊細だった。やはりさらさらとした髪質だ。これも彼女本人の努力の成果なのだろう。
「やっぱり、すごく綺麗だ」
触り心地が気持ちよすぎるのでずっと触っていたいと思うくらいだった。しかし、綾乃が突然俺の手から自分の髪の毛を離した。
「も、もう終わりっ!しゅーりょー!」
「え……せめてあと一回!」
「ダメったらダメ」
そう言ってそのあとは触らせてくれなかった。
「これ以上触らせたら、恥ずかしすぎて死ぬ……」
「別に恥ずかしくないぞ?めっちゃ綺麗だから心配すんな」
「そういうことを不意に言うのは禁止!」
「どういうことだよ」
「出てって!」
そう言って俺は洗面所から追い出されてしまった。
「いやっ!次俺お風呂入るんだけど!」
俺がそう言うと、洗面所の扉がゆっくりと動く、そして顔を半分だけひょこっと出して
「あと5分だけ待って」
「はいよ」
顔半分だけでも顔が赤くなっていたのがハッキリと分かったのは、お風呂上がりだからだろうか。このことを言ったら、綾乃が拗ねそうなので言いたい気持ちを我慢して扉の前から立ち去る。
そのあとのお風呂は、さっきの綾乃の髪の毛の感触を思い出してしまった。
あとがき
どうも楠木です。近況ノートで休載すると書いていて、約3週間の間全く書いていませんでした。しかし、やっぱりまた書いてしまいました。(笑)
読者の皆様には本当にご迷惑をかけてしまいすみません。自分自身この作品が好きなため、作品を完結させたいという気持ちはありますので、急がずゆっくりと進んでいければいいなと思っております。
天子様の方は、この作品が終わった後に書こうかなと思いますが気分転換にそっちを書くかもしれませんのでよろしくお願いします。
ま、ちょっと早い夏休みがあったと思ってください。
(今後もサボったりするとおもいますが)
読者の皆様には付き合ってくれるのなら、楠木のわがままにもうしばらく付き合ってもらえると幸いです。
以上
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