第73話

 今日は久しぶりに三村と蒼太と遊びに来ている。今は椅子に座りながら、雑談している途中だった。


「なにぃ〜!?白河さんと大晦日お泊まりするだと?!」


 俺の話を聞いて三村が「ふざけるな!」と声を荒げていた。

 いつもだったら三村の愚痴がネチネチと続くのだが、案外今日はあっさりしていた。


「いいなぁ、それ」

「あ、あぁ。・・・・・・どうした?いつもみたいに、なんか言ってこないのか?」

「いや、俺も暇だったらうるさかったけど、俺も予定がな」


 そう言っている、三村の声はとても嬉しそうで表情も、にやつきを抑えられていなかった。


 絶対女だ・・・・・・しかし、なんだこの気持ちは。見守っていたいという気持ちと、からかってやりたいという気持ち。


 俺は今この2つの気持ちと葛藤していた。


「その気持ちわかるよ黒田」


 俺の肩に手をポンッと置いてくる。蒼太が俺の気持ちは全部痛いほどわかる。といった表情でうんうんと頷く。


「この感じからして、女だよな?」

「うん。それは間違いないと思う」

「ついに三村にも、女性がと考えるとなぁ」

「でも、悪い女の人かもしれない」


 蒼太はそう言っているが俺はそう思わない。会った事はないが、三村が選んだんだ、いつもは変なことしたりして、おかしな奴だがそういう人を見る目などはあったりする。


 しかし、蒼太も嫌味とか馬鹿にしている訳でもない。三村が友達で親友だからこそ、ちゃんとした人と付き合ってほしいのだろう。


 蒼太なりの優しさだ。


「あれ?3人とも何やってるの?」


 聞き慣れた声がしたので振り返ると、綾乃と尾鳥さんがこちらに笑顔で手を振っている。


「僕たちは、久しぶりに3人で遊んでたんだよ。そっちこそ、どうしたの?」

「私たちも買い物してたんだけどねぇ〜、そーくんとか黒田くん見えたから来ちゃった〜」

「あっ!雄星くんが飲んでるの最近話題だったやつ?!」

「うん、そうだよ」


 綾乃は俺のジュースをジーッと見つめたあと、次は俺の顔をジッと見つめてきた。


「一口欲しいの?」

「よくわかったね!」

「そりゃ、そんなに見られたらねぇ」


 綾乃にジュースを渡すと綾乃はストローをちゅーっと吸って、一口飲んだ。

 俺はその間、間接キスしちゃった。と一人で勝ってにドキドキしていた。


 気持ち悪いと言われても仕方がないだろう。


「じゃあ、お返しにはい!」

「えっ?」

「あーん」


 すると、半ば無理矢理に何かを口に入れられる。もちもちとした食感と適度な甘さが口に広がった。


「なにこれ」

「ドーナツ!これも最近話題なんだぁ。最近は抹茶ブームだからね!」

「抹茶・・・・・・美味しい」


 綾乃は「でしょでしょ!」と満足そうに話していた。


「おい!そこのバカップル共〜!俺の目の前ですぐにイチャイチャするな!」

「わ、わるい」

「ごめんね〜」

「ち、違うの三村くん!イチャイチャしてるつもりは・・・・・・ごめんなさい」


「まったく!」と言いながらぷりぷりと怒っている三村。そうそう、いつもこんな感じなのだ。


「あ、じゃあそろそろ私たち行くね!」

「ばいばい〜」


 そう言って、綾乃と尾鳥さんはどこかへ行ってしまった。

 俺は少しがっかりしてしまったというか、寂しくなってしまったというか。


「三村〜俺たちどうする?」

「ボーリングでも行く?」

「あー、悪い。俺これからバイト」

「あー、そっかそっか・・・・・・」


 バイトなら仕方がない。そっか、三村には予定が・・・・・・バイト?三村が?


「バイト?!」

「み、三村?バイトって何やってるの?」

「えっ?知り合いのカフェで働かせてもらってる」

「そ、そうなんだ」


 三村が言うには最近から働き始めたらしい。まぁバイトする事は悪いことではない。

 でも、まさか三村が・・・・・・


「悪りぃ、そろそろ行くな」

「あぁバイト頑張れ」

「あ!バイト先についてくるんじゃねぇぞ?絶対だからな?」


 そう言って三村はバイト先へ向かった。


「絶対だって」

「うん、絶対ね・・・・・・」


 絶対なんて言われたら、行くしかないだろう。そういうフリだろう。

 三村も絶対わかっている筈だ。


「黒田、まずは形から入らないと」

「なんで持ってるんだよ・・・・・・」


 蒼太はなぜか持っていたサングラスを俺に貸してくれた。


 形とはこういうことだったのだろうか、あとはコートがあれば完璧だった。


 俺たちはすぐに三村のあとを追って店を出た。

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