第70話
「よ、よがっだぁ〜!」
そう言って綾乃は青色のハンカチで大粒の涙を拭いている。
鼻水を垂らすほど泣いていた。
映画の内容は小説家の主人公の幼馴染がある日、交通事故で亡くなってしまうのだが、それまでの幼馴染と過ごした日々を小説に書くという物語だった。
確かに、最後の方は俺もうるっと来たのだが綾乃が横で最初の方から号泣だったので、泣くに泣けなかった。
「主人公可哀想だよ〜」
「泣きそうになったよ」
「ぐすっ、泣かなかったんだ」
「綾乃は号泣してたね」
俺がそう言って笑うと、頬を膨らませて「恥ずかしいから今度から泣かない」と言っていたが、こう言うことを言う人は次も泣くんだよな、と思った。
それよりも、次も俺と映画を観てくれると言ってくれたのが何気に嬉しい。
「なにニヤついてるの」
「ニヤついてない」
「馬鹿にしてるなぁ?」
「してない」
「本当かなぁ・・・・・・」
綾乃は微妙に俺を疑っている様子だった。馬鹿にはしていないが、とても可愛かったなぁと思っただけだった。
自分はあまり泣けないからだろうか、こういう感動系の映画で泣ける人に悪い人はいないと俺は思っているからだ。
「あ、グッズ見てもいい?」
「ハマりすぎじゃね?」
「いいじゃん!面白かったんだし」
そう言って、クリアファイルやポスターなどを見ている。
「やば。グッズ見てるだけで泣きそう」
「おいおい・・・・・・」
「大丈夫!・・・・・・・・・ゔっ」
「泣きそうだったろ今」
結局綾乃はグッズを見てるとまた泣きそうだからという理由で買うのはやめたらしい。
「結構いい時間になったね」
「そうだな、じゃあイルミネーション見に行く?」
「うん!これが1番楽しみにしてたからね!」
俺達は1番の目的であるイルミネーションを見るために、映画館を後にした。
綾乃と2人で街を歩いていたら、空から白い何かが鼻に当たった気がしたので上を向くと、空から雪が降ってきた。
街の明かりに照らされて雪がやけに眩しく見える。映画のワンシーンを思い出す。
「雪!綺麗〜」
「積もるかな、雪かきめんどくさいから積もらないでほしい」
「ええっ!!積もった方が楽しいよぉ〜雪だるまでしょ?雪合戦でしょ?あとは・・・・・・・」
「高校生になってから雪で遊ばなくなったな」
「わ、私だって夏乃がどうしてもって言うから・・・ほ、本当だよ!私は・・・・・・いや、私から誘う時もあります」
雪で遊ばなくなったとは言ったが、スノボは行くことがある。三村や姉ちゃんに連れてかれることが多い。
俺が考え事をしながら歩いていると前には結構な人混みがあった。
「ゆ、雄星くん・・・・・・」
「人多いし、はぐれると困るから手繋ぐか」
そう言って俺が綾乃の小さく柔らかい手をぎゅっと握る。
「私まだ何も言ってないんだけど」
「じゃあやめるか」
「ちょっ!うそ!・・・・・・繋ぎたいから、離しちゃダメ・・・・・・」
「はいよ」
なんか、流れでいったがとてもドキドキしている。手汗が出そうでとても心配なのだが、この際そんなこと気にしている暇はない。
「わぁ〜すごい綺麗」
人が多すぎてどうなるかと思ったが、なんとか2人でゆっくり見れる位置まではきた。
カップルばかりで空気がキラキラしてそうな空間で少し気分が悪くなりそうだったが「今は俺もリア充の1人」と3回言ったら楽になった。
「もう少し近くで見たいですけど、他の人の邪魔をするみたいで行きづらいね」
「確かにな、写真撮ってる人もいるしな」
写真撮ってる人がいると通っては行けない雰囲気みたいなのがあるのはどうしてだろうか。
だからといって映り込むのも悪いし・・・・・・
俺は普通に立っていれば見れるのだが、綾乃は前の人が壁になっていて辛そうに背伸びをしている。
「もう少し高いところから見たいか?」
「え?うん、できるならね」
「じゃあ失礼して」
「え?何して・・・・・・ひゃっ!?」
俺はしゃがんで綾乃の腰らへんを掴んで持ち上げた。驚くことに、あまり力は入れてないのに持ち上がった。それだけ綾乃が軽かった。
それに花の様ないい匂いがするし、自分の体とはまるで違う柔らかいものを持ち上げてる様だった。
「たしかに高いけどおんぶの方がいいんじゃ?」
「綾乃の尻を狙う奴が出てくるかもしれんからな」
「何言ってるの!」
もうっと言って呆れていたが、それとは別に綾乃はイルミネーションに夢中になっていた。
「あ、これじゃあ雄星くんが見れないね・・・・・・」
俺は「別にいい」と言ったのだが、綾乃が俺に気を遣って「おんぶでお願いします」と言ってきたのでおんぶにしようと、一旦下ろそうとした時に後ろから人がぶつかってきたのだろうドンッと衝撃がきてゆらっとふらついてしまい、前に倒れそうになってしまった。
俺は咄嗟に綾乃の上半身の方に腕を持っていき、何かを掴んで踏ん張った。
その掴んだ感触はフニャッとしていた。お腹・・・ではなかった。
「・・・・・・ろして」
「え?なんて?」
「下ろして!」
俺はゆっくり、綾乃のことを下ろす。この反応で分かった。俺が咄嗟に掴んだところは胸だ。
ラッキースケベをこんなところで発動したくはなかった。
「おんぶお願いします」
「は、はい!」
綾乃をおんぶすると、綾乃が前屈みになってくるので、綾乃の胸が当たっていることがわかる。
「綾乃?あの、当たってるんだけど」
「し、仕方ないでしょ!小さくできないんだから」
「小さくはしなくていいんだけど・・・・・・」
「えっち、変態」
そう言って俺はバシッと叩かれる。でも、男だったらこんなに天国と思える時間はないだろう。
高校2年生まで生きてきて、1番最高のクリスマスになった。
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