第69話

「美味しかったね!!」


 綾乃はそう言いながら満足そうに感想を話したあとに、抹茶の飲み物をストローでちゅーちゅーと美味しそうに味わっている。


 俺は周りから送られてくる微笑ましいと言った視線で味を楽しむ余裕がなかったというか、それでも美味しかったのは本当だ、雰囲気も良かったし今度三村や蒼太にも教えてやろうと思った。


「まだ明るいね、どうしよっか」

「まぁ、今ご飯食べたばっかりだしね」


 そのあとのことを決めてきていないのか、綾乃はうーんと考えていた。


「時間あるし映画でも観る?」

「いいかも!」

「じゃあとりあえず、映画で」


 そう言って、映画館まで足を運んだ俺たちは映画館の中でも何を観るか迷っていた。


「俺はアクション系がいい!」

「私は感動のラブストーリー!」


 そう言い合っていてまだチケットを買っていない。

 普段だったら相手に合わせたら譲ったりするのだが、感動ものが苦手というか、最後まで集中して見れないので、アクション系がいいのだが、綾乃も全く譲る気がない。


「じゃあ、じゃんけんで決めよう」

「わかった本気出す」


 綾乃はそう言って、とても意気込んでいる。じゃんけんに本気もなにも無いと思うのだが・・・・・・


「じゃーんけーん!」

「ぽん!」


 俺はグーで綾乃がパーだった。じゃんけんのルール的にグーはパーには勝てない、つまり俺の負けだ。


「3回勝負とか言うのはなしね?」

「えっ!?あっ、いやうん・・・・・・」

「ねぇ?男の子だもんねぇ」


 と言って勝ち誇った笑みを浮かべている。まぁ、実際、勝っているので何も言えないのだが。


「じゃあチケット買いに行くよ!」

「わかった・・・・・・ってホラーもやってたんだ」


 俺がそう言ってチケットを買おうとすると、綾乃が立ち止まっていた。


「どうしたんだ?」

「ほ、ホラーもねぇ、へー」

「いや、感動もの観るだろ?それともホラーの方が良かったのか?」

「ち、ちがっ!ホラーなんて・・・・・・」


 俺はその言葉を聞いた時にピーンッと無性に意地悪したくなってしまった。


 綾乃の肩にそっと手を置くと、ビクッと体を反応させていた。


「もしかして、ホラー苦手?」

「・・・・・・べ、べ、別に?」

「俺実は霊感あって、今綾乃の後ろに手を振ってる女性が・・・・・・いたたた!痛いって!」


 綾乃がぎゅぅっっと俺の腕を掴んでいた。それほど苦手なんだろう。

 しかし、可愛い綾乃を見れただけだったのだが、綾乃は顔が笑っていなかった。


「も、もう行った?まだいるの?!」

「え・・・・・・あー俺の見間違いだった」

「よ、よかったぁ」


 綾乃はふぅっーと息を吐いていた。なんか、とてつもない罪悪感が心の中にあった。


「あ、えっと・・・・・・ごめん全部嘘」


 綾乃はそれを聞いて、ポカンとしていた。しかしふふっと笑って「なおさら良かったぁ」と言ってくれた。


「そんな、いじわるするんだったら雄星くんと席離しちゃおうかな〜?」

「いいのか?霊は1人の方に寄って行きやすいって言うぞ?」


 別に知らんけど、綾乃が対抗してきたので、すかさず適当なことを言っておくと、綾乃はまた笑っていなかった。


「・・・・・・そ、それは雄星くんも一緒じゃん!!」

「いや、考えてみろ可愛い可愛い女の子と普通の男どっちに行くと思う?」

「わ、わかんないよ!!」


 綾乃はそう言って、2人分のチケットを買っていた。俺は一度も座席を見ていないのだが、綾乃が決めてしまった。


「ほらっ、これで大丈夫」

「あれ?席隣だけど・・・・・・」

「悪い?!別に彼氏彼女なんだしいいでしょ!」

「あ、あぁ」


 俺は小声で「怖いなら怖いって言えばいいのに」と言ったら、聞こえてたのか、キッと俺の方を睨んできた。


「雄星くん、次そういう怖い系のこと言ったら、怒るからね?」

「いや、俺は・・・・・・」

「怒るからね?」


 綾乃は念入りに俺に忠告してくる。綾乃に怒られるということを想像すると、なにやら自分の新しい扉を開きそうで怖かった。


「返事は?」

「はい!」

「いいお返事貰えたから、まさか嘘つかないよね」

「も、もちろんですっ!」


 そう言って俺たちはポップコーンや、何気に高い映画館のジュースを買ってから、チケットを渡して3番スクリーンに入っていく。

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