第67話

 夏乃の誕生日から2週間ほど経った。あれから綾乃と夏乃もお義父さんの口下手には慣れたようで、夏乃は今度お義父さんと2人で買い物に行く仲になったそうだ。


「・・・・・・って雄星君聞いてる?」


 綾乃が疑いをかけた目で俺をジッと見つめてきた。


「あー、えっと」

「もうっ、もうすぐクリスマスだけど空いてる?って聞いたんだけど」


 そうだ、いつもと変わらない日常を過ごしすぎていて、もうすぐでクリスマスということを忘れていた。


 いつも家族で過ごしていたクリスマスが初めて、好きな人とクリスマスを過ごすとなると、少し緊張してしまう。


 そして、なぜか変に期待してしまう。


「おーいー!聞いてるのか〜?」

「ご、ごめんっ。空いてるよ、てか予定なんて、滅多に入ってないよ」

「なんで、そんな悲しいこと言うの」


 実際に入ってないんだから、悲しくもなんともない。


「じゃあ、今話題のカフェあるんだけど・・・・・・一緒に行かない?」

「行く、俺コーヒー頼む」

「フフッ、じゃ決まりねっ!」


 しかし、カフェ行って終わりではない、綾乃は「イルミネーションも見たいなぁ」と言って、嬉しそうな雰囲気全開で歩いていた。


 そんな満面な笑みで歩くもんだから、通りすがる中学生や女子大生らしいお姉さんからも見られているのがわかった。


「綾乃、イルミネーション見るのは夜だし、昼は買い物でもするか?」

「えっ?!いいの?」

「うん、付き合うよ俺も服とか見たいし」


 そう言うと綾乃は「ありがとー!」と言って俺に抱きついてきた。

 俺はまだクリスマスでもないのに、幸せな気持ちになってしまった。


 別に綾乃のためにしたわけじゃない、俺も服が欲しいのだ、本当にそれだけだ。


 綾乃とはクラスが違うので、学校に着いたら別々の教室に入って行く。


「おーい!黒田〜?」

「どしたの黒田、変なものでも食べた?」

「はぁ?なんでだよ〜」

「いや、だって、顔が緩みすぎててキモいし、なんかドロドロのスライムみてぇ」

「はぁ〜?ひどいこと言うな〜」


 俺はそう言って、黒田の脇腹をぐりぐりと拳を押し付ける。


 すると、三村はササッと恐ろしいほど早いフットワークで俺から距離をとった。


「え?なんで離れるんだよ〜」

「いやいや、普通になんか無理」

「うん、僕も普通にニヤニヤしてて気持ち悪い」

「おい!それはひでぇだろ」

「あっ、戻った」

「戻ったね」


 コイツらは俺のことをなんだと思っているんだ、いつも怒っているような表情をしていると言うのか。


「なんだなんだ?なんでそんなに、うれしそうなんだ?」

「え、えっと・・・・・・それは」

「あっ、白河さんとクリスマス一緒にデートするのか〜?」


 多分三村は俺がまだ予定がないと思っていたのだろう。顔が俺を馬鹿にしてる時の顔になっている。


 俺は、素直に答えるべきか、クリスマスには予定が入っていることは黙っているか悩んでいた。


「・・・・・・するのか」

「え、なんでそうなるんだよ」

「今の絶妙な間があったら猿でも察するわ」

「いや、そこまで・・・・・・」

「じゃあなにか?行かないのか?」

「いや、行くけどよ」


 すると三村の瞳には、なにやらキラキラしたものが・・・・・・


「三村・・・まさか泣いてんのか?」

「う、うるさい!せっかく2人とクリパやるために一攫千金の旅買ったのに!!」

「いや、自分がやりたいだけだろ」


 俺がバッサリとそう言うと三村は蒼太に「うわぁ蒼太〜黒田がいじめるー」と言ってすりすりと頬を擦り付けていた。


 蒼太は三村のことをすぐに振り払っていた。


「黒田、三村は泣いてるというか、目薬さした、だけだしね」

「まさか!そ、蒼太まで俺を裏切るのか!?」

「裏切るというか、最初からそんな話出てなかったでしょ」


 蒼太はそれに加えて「クリスマスは彼女と過ごすから三村とは遊ばない」とキッパリ断っていた。


「三村は居ないのかよそういう人」

「なんだよそういう人って」

とか」

「いねーよ・・・・・・お前らに彼女が居るのもうらやましいけど、好きって思える人がいた事の方が羨ましいよ」


 そう言って、三村はぐすぐすと音を立てていた。また嘘泣きなのか、今度こそ本当に泣いてるのか分からなかったが、俺と蒼太はポンッと三村の方に手を置いた。

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