第66話

 数分もすると、2人は泣き止んでいた。しかし、2人の表情は暗いままで、沈黙が続いていた。


 もう、辺りは真っ暗で冷たい風が肌に触れる度、ブルッと体を震わせてしまう。


「綾乃お母さんに連絡は入れたのか?」

「あっ、うん。送っといたよ」

「黒田もごめんね」


 夏乃が暗くて顔がよく見えないが声色でわかる。とても反省しているような声だった。

 俺は別にいいのだが、夏乃的にとんでもないことをしてしまったと思っているのだろう。


 夏乃も反省してるし、綾乃も「ごめん」と言っていたのに、なんだこの空気はと思ってしまった。

 この姉妹にこんなに暗い空気は似合わないと、ずっと思っていたのだ。


「まぁ、とりあえず仲直りくらいしたら?」

「仲直り?」


 夏乃と綾乃がハモってオウム返しのように聞いてくる。

 俺はそれを聞いて、大きなため息を吐いた。


「お前ら姉妹のくせに知らないのか?」

「べ、別に喧嘩してないし」

「うん、夏乃が悪いことしたから・・・・・・・・・」

「違う!夏乃じゃなくて私が悪いことしたから」

「お姉ちゃんは悪くないよ!」


 そんなやりとりを3回くらい見せられたので、我慢出来ずに「バカなのか!」と言ってしまった。


「そんなことで譲り合いするんだったら、どっちも悪かったごめんなさい。でいいんだよ!そして、握手かハグしたら仲直り!」


 そう言って、2人の背中をポンと叩く。別に俺が言わなくても、どうせ仲直りしたと思うが、今日は夏乃の誕生日なんだからこんな暗い雰囲気より楽しくやった方がいいに決まってる。


 というよりも、原因はあのお義父さんだろ・・・・・・でも、ちゃんとサプライズを用意しているんだろうという期待を俺はどこかでしていた。


「これで仲直り・・・・・・」

「あぁ、2人ともお互いのこと好きだろ?」

「ううん・・・・・・」


 え?俺の耳がおかしかったのだろうか、今ううんって言った?


「大好きだもん!」

「お姉ちゃんっ・・・・・・くるしいよぉ」

「本当に夏乃、ごめんね」

「ううん!もう平気!」


 そのあと夏乃は「お姉ちゃんポカポカする〜」と言ったその声は、元の元気のいい夏乃の声に戻っていた。


「じゃあ帰ろっか!お母さんも心配するだろうし」

「うん!」

「あっ、ちょっと待って!」


 俺がそう言って2人を止める。そう言って、自分のバックから、小さな袋を取る。


「夏乃、誕生日おめでとう」

「ありがとう!」

「ありがとう雄星くん・・・でも、どうして今?」

「もしかしたら、俺が居ない方がいい展開になるかもしれないから」

「なに?展開って漫画みたいなこと言って〜」


 そう言って、綾乃は笑っていた。それにつられて夏乃も笑っていた。


◆◆◆


 帰り道は、夏乃を探している時の雰囲気とは全く違う明るい雰囲気だった。


 夏乃も元気一杯といった感じで、綾乃と話している。


「あっという間だったね」

「うん」

「夏乃?辛かったら別に・・・・・・」

「大丈夫!!」


 そう言って、玄関の扉を開ける。


「た、ただいま・・・・・・」

「夏乃!」


 そう言ってお母さんがドタドタと慌てて走ってくる。

 そして、夏乃に近づいてすぐに夏乃のことを抱きしめる。


「ごめんなさいっ。あなたの誕生日なのに・・・・・・・私は、母親失格です」

「そんなことないっ!夏乃のお母さんはお母さんしか居ないの!失格なんかじゃない!」

「ありがとう。ありがとう」


 そう言って、夏乃のことを泣きながら抱きしめていた。


「あのね、お義父さんからお話があるみたいなの」


 お母さんが「ほらっ!お義父さん」と言ってリビングの扉からお義父さんがノソッと出てくる。

 

「夏乃・・・・・・」

「なぁに?」

「ついてきなさい」


 そう言って、顔色ひとつ変えずに夏乃をリビングに誘う。


「わぁー!!」


 夏乃が驚いたような声を出したので、夏乃に続いて俺と綾乃もリビングに入った。

 すると、テーブルにはが置いてあった。


「お義父さんね、今日は私が作るって言って練習してたのよ、料理も練習してたんだけど、料理の方は最後まで上手く出来ないって悩んでたの」

「あっ!私が買った料理の材料って」

「お義父さんが作ろうとしてた料理の材料なのよ」

「来年は、必ず・・・・・・作れるようにする。今日のことは本当にすまなかった」


 なんて、口下手で不器用な人なんだ。俺はまず最初にそう思った。


「ううん、夏乃もごめんなさい・・・・・そしてお義父さん!ありがとう!」


 そう言って、夏乃は涙を流してはいたが、その表情は、とてもニコニコとした笑顔だった。


 俺は綾乃や夏乃がお義父さんやお母さんと喋っているのを見て、俺は邪魔してはいけないと思い、そっとリビングから出た。


「雄星くん!」


 それに気づいたのか、綾乃が俺の方にトントンと音を鳴らして寄ってくる。


「どうしたの?」

「あー、今日は家族で過ごした方がいいと思って、俺はだから」

「まだ・・・・・・・・・」


 綾乃は顔が赤くなっていた。いや、赤くなっている理由はわかる。


「そっか・・・・・・じゃあまた学校でね!」

「あぁ、学校で」


 そう言って俺は綾乃の家を後にした。

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