第63話
「き、来てしまった・・・・・・」
本当は来てはいけないんじゃないかと内心思っていながらも、フラフラと足を綾乃の家に運んでしまった。
手には小さな袋を持って俺は綾乃の家の玄関の前にいる。
なんと言っても今日は夏乃の誕生日だ。俺が選んだプレゼント喜んでくれるといいけど・・・・・・
そんな不安とちょっとした期待を胸にという感じで、いざ!・・・・・・って思っても中々インターホンが押せない。
自分の彼女の妹の誕生日なのに、緊張していては綾乃の誕生日の時はどうなるのか考えただけでゾワっとする。
「ええいっ!押せ!」
ピンポーンと自分の家とは違う音を聞きながら、綾乃が出てくるのを待っている。
「はい・・・・・・どちら様でしょうか」
俺は完全に意表を突かれた。そうだここは綾乃の家であって、必ずしも綾乃が出てくるとは限らない。
この声からわかる、渋くて怖そうな声は綾乃のお義父さんしか居ない。
どうしよう。俺の頭の中はその考えだけだった。
「用がないのなら・・・帰っていただけますか?」
「あっ!いえっ・・・・・・用事ならあるんですが」
「なんでしょう」
「ええっと・・・・・・白河さん。白河夏乃さんの誕生日に呼ばれまして」
「・・・・・・・・・・・・そうですか」
なに?今の間、すごく怖いんですけど。
「どうぞ、入ってください」
ガチャッと鍵が開く音がして、出てきたのは
学年一の美少女ではなく、そのお義父さんでした。
「お、お、お邪魔します」
俺はそう言って、靴を丁寧に玄関に並べて案内されたリビングに入っていく。
俺はソファに腰掛け、姿勢を正して待っている。前に来た時はこうじゃなかった。
軽く、くつろいでいた。しかしなぜか姿勢を正してしまう。
俺はソファに座っている間、お義父さんと話す内容を考えていたが、すべて上手く話せそうになかった。
その沈黙の間、コポコポとお義父さんがコーヒーを淹れる音だけがする。
何気ない音だが、こういう時だからこそ、落ち着くというか、とても良い。
「あ、あの綾乃さんは・・・・・・」
「買い物に出掛けてるよ。急に頼んじゃったからね
本当は綾乃が君を出迎えるところだったんだがね」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
コトッとお義父さんはテーブルにコーヒーを置く。その時の手が傷だらけというか、絆創膏が何個も貼ってあった。
俺はそれを見て、なにか料理でもしている途中だったのだろうかと思うと、少し申し訳なく思っている。
すると俺の方を見て
「・・・・・・・・・どうぞ」
と一言だけ言う。俺は「ありがとうございます」とお辞儀をして、ありがたくいただく。
「おいしいっ」
俺も一言だけそう言った。
◆◆◆
「ただいま〜!」
やっと綾乃が帰ってきてくれた!俺は隠しきれない嬉しさと、このどうしようもない状況を壊してくれと願っていた。
「あれ?雄星くん来てたの?!」
「お、お邪魔してます」
「やばっ、髪の毛とかテキトーなんだけど・・・・・・」
「大丈夫だよ、可愛いから」
「えっ、そ、そう?」
というか、今ここで髪の毛をセットしに行ってしまったら、また俺とお義父さん2人きりになってしまう。
そんな空気、気まずすぎて、耐えられるわけがない。
「何買ってきたんだ?」
「んー?お料理に使う食材が足りなくて、それを買ってきたんだ〜」
「なるほど・・・・・・」
ダメだ、変な話はお義父さんが居るからできない。
もし、変なこと言ったり、してしまった時は俺は無事には帰れないかもしれない。
「あっ、お母さんからの電話で、もう少しで夏乃
帰ってくるらしいから、みんなクラッカーの用意してねー!」
そう言って、一本渡される。
「ほらっ!お義父さんも」
「・・・・・・あ、あぁ」
「こういうの嫌?」
綾乃が不安そうな表情でお義父さんの顔を覗いている。
「ただいま〜!」
そんな時に夏乃が元気な声で、帰ってきた。ドタドタと走りリビングの扉を開ける。
「せーのっ!」
綾乃の掛け声に合わせて、クラッカーの紐を思い切り下に引っ張る。
すると割と大きい音でパンッ!と鳴る。それに続けて、お義父さんもクラッカーを鳴らす。
夏乃はそのクラッカーの音に一時びっくりさせていたが、大きい音で興奮したのか「もう一回!」と連呼している。
その時の少女の瞳はキラキラと輝いていた。
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